プリハードン鋼とは?
特性や規格、メリット・デメリットを徹底解説
2022年6月23日

プリハードン鋼とは、あらかじめ中程度の硬度(ロックウェル硬さ HRC45以下)に熱処理をした鋼材のことを言います。
プリハードン鋼は被削性に優れており、主にプラスチック金型や研削加工用として使われている素材です。
鋼材メーカーにより硬度や特性は異なり、種類も豊富です。製品によっては、自動車部品などにも用いられます。
しかし、現場によってはプリハードン鋼を扱う機会が少なく、詳しくない方も多いのではないでしょうか。
そこで、今回はプリハードン鋼の特性や規格、メリット・デメリットなどについて解説します。
プリハードン鋼についてもっと知りたい方は、ぜひ参考にしてみてください。
1. プリハードン鋼の種類、用途、特徴、熱処理
プリハードン鋼は金型材料とし使われることが多いため、
鏡面仕上げ性やシボ加工性など、金型として加工する際にメリットとなる性質が重要視されます。
プリハードン鋼の種類と用途
プリハードン鋼の規格はJISでは定義されておらず、各鋼材メーカーが販売する商品名によってそれぞれ定義されています。
そのため、同じような素材であっても各社で取り扱い名称が異なります。
プリハードン鋼は、硬さを持ちつつも切削加工しやすいという性質から、主に金型の材料として使用されます。
プラスチック・樹脂の射出成形用の金型やゴム金型の他、金属のダイカストやプレス金型、鍛造金型にも使用されます。
また、既に熱処理が済んでいる素材なため、機械加工後に熱処理を行うと歪みが出てしまう場合などは、
プリハードン鋼を利用すれば加工後の熱処理が省けます。そのため、精密機械の材料にも使用されます。
プリハードン鋼の特徴
プリハードン鋼の多くは、機械加工がしやすいよう、HRC(ロックウェル硬さ)が45以下程度の硬度に調整されているのが特徴です。
材料として用いる段階から硬度があるため、そのまま製品として使用、加工します。
プリハードン鋼の熱処理
プリハードン鋼は、炭素鋼などの鋼材に調質という熱処理を行ったものです。そのため調質鋼ともよばれます。
一般的な炭素鋼では、焼き入れの温度は800℃~850℃、焼き戻しの温度は420℃程度で行われるのに対し、
調質では焼き戻しがおよそ500℃前後で行われます。
焼き入れによって生じた大きくて硬い結晶を、比較的高温での焼き戻しによって微細化させるためです。
これにより、熱処理が施された材料でありながら、切削などの機械加工が行いやすくなります。
プリハードン鋼は、ほとんどの素材においてHRC40~45程度になっています。
プリハードン鋼の規格
プリハードン鋼はJIS規格にはない鋼材で、HPM**・NAK**などの鋼種名で販売しているので、
多くの固有呼称(各製造メーカー独自のブランド名)があります。
細かな特性などもメーカーによって違いがあります。代表的な鋼種としては以下のようなものが挙げられます。
CENA-GとCENA-Vは、錆びにくく、鏡面磨きの仕上がり肌を重視した鋼材です。
硬さは35~41HRC級で、窒化により表面硬さ1000HV以上を得ることができます。
金型製作トラブル、成型メンテナンスの工数削減などに貢献します。
プラ型向けプリハードン鋼で、硬度に対し被削性が高く、汎用金型に適した材料です。
納入硬度はHRC37~41で、被削性に優れることから快削プリハードン鋼とも呼ばれています。
HPM38は13Cr系含Moステンレス鋼であり、特殊溶解によって製造されているため、
高硬度で耐食性と、鏡面仕上げ性の要求されるプラスチック金型に最適です。
また、熱処理変形が小さいので、精密熱処理に適しています。
納入硬度はHRC29~33ですが、焼き入れ、焼き戻しでHRC50~55の硬度を得られます。
さらに、耐錆性に優れており、金型の保管にも効果的です。
高温強度、軟化抵抗は低いですが、靭性は高いです。
ハンマー金型、アルミ鍛造型、鍛造用ボルスタ、押出補助工具などに適用されます。
ダイカスト型向けのプリハードン鋼で、納入時硬さHRC38〜42のSKD61改快削プリハードン鋼です。
被削性に優れプラスチック金型(エンプラ、スライドコア用途等)、ダイカスト金型(小ロット型用途等)に用いられます。
良好な靭性により金型の耐チッピング性向上に期待できる新しい冷間ダイス鋼。
58-60HRCに調質されており、直彫りで金型に使用できます。
- ※1:CENA、HPM、DAC、FDAC、SLDは株式会社プロテリアルの登録商標です。
NAK55
プラ型向けプリハードン鋼で、鏡面仕上げ性やシボ加工性、溶接性、被削性に優れています。
納入硬度はHRC37~43で、時効硬化性を持つため熱処理による硬度の向上はできません。
NAK80と比較し、被削性の高い材料です。
NAK80
プラ型向けプリハードン鋼で、鏡面仕上げ性や耐摩耗性、被削性、溶接性、シボ加工性に優れています。
納入硬度はHRC37~43で、NAK55と同じく時効硬化性を持つため、熱処理による硬度の向上はできません。
NAK55より靭性が高く精細な鏡面仕上げが可能ですが、被削性は低下します。
PXA30
プラ型向けプリハードン鋼で、PX5を改良したタイプです。
納入硬度はHRC30~33で、鏡面仕上げ性やシボ加工性、被削性、溶接性、放電加工性に優れています。
G-STAR
耐食性の高さが特徴のプラ型向けプリハードンステンレス鋼です。
納入硬度はHRC33~37で、焼き入れ、焼き戻しによってHRC48程度の硬度を得ることも可能です。
S-STAR
SUS420J2系の耐食性を有し、鏡面仕上げ性や耐食性、シボ加工性、EDM性に優れたプラ型向けプリハードンステンレス鋼です。
納入硬度はHRC31~34で、焼き入れ、焼き戻しでHRC53程度の高硬度が得られます。
GO40F
プレス型向けプリハードン鋼です。納入硬度はHRC36~40で被削性に優れ、切削加工時の歪みが少ないのが特徴です。
DH2F
ダイカスト型向けのプリハードン鋼で、納入硬度はHRC37~41です。耐溶損性や耐ヒートチェック性が良好で、被削性に優れます。
- ※2:NAK、NAK55、NAK80、PXAは大同特殊鋼株式会社の登録商標です。
STAVAX(H)
SUS420J2系の耐食性を有するプラ型向けプリハードンステンレス鋼です。
納入硬度はHRC27~35で、鏡面仕上げ性や耐食性、耐摩耗性、被削性に優れます。
- ※3:STAVAXはUddeholm社の登録商標です。
2. プリハードン鋼のメリット・デメリット
プリハードン鋼のメリット
プリハードン鋼の多くは、HRC45以下程度の硬度がありながらも、被削性に優れています。
また、機械加工後に焼き入れ・焼き戻しといった熱処理を行う必要がなく、作業工程およびコストの削減に繫がる点もメリットです。
通常、SC材などの鋼材を使うと、焼き入れや焼き戻しが必要な場合でも、プリハードン鋼であれば熱処理の必要がなくなり、
納期の短縮が期待できます。
焼き入れ・焼き戻しをせずに使用できるため、熱による歪みを考慮する必要もありません。
また、製品によっては、鋼材の芯部分にまで焼きが入っているものもあります。
通常の熱処理であれば、表面は硬くても、芯までは焼きが入りにくいもの。
しかし、プリハードン鋼であれば、硬度の差が少なく、切削しても硬度のムラが少ないのが特徴です。
プリハードン鋼のデメリット
デメリットは、機械加工が難しくなるHRC50を超えるような製品はほとんど販売されていないこと。
そのほかに、熱処理をしても硬度が上がらない製品が存在します。
- ※SLD-f60は58-60HRCに調質されており、直彫りで金型に使用できます。
硬度が上がらない製品の例として挙げられるのが、NAK**の鋼材です。
これは、NAK**の鋼材が、「時効硬化」または「析出硬化」と呼ばれる方法で硬度を上げているため。
時効硬化・析出硬化とは、急冷した合金の時間経過による常温化により、
合金元素がところどころに析出し、材料が硬くなる現象のことです。
このように、NAK**の鋼材は通常の熱処理とは異なる方法で硬度を上げていることから、焼き入れ・焼き戻しをしても硬度が上がりません。
3.プリハードン鋼の被削性と加工時のポイント
プリハードン鋼の被削性
プリハードン鋼は、中程度(HRC45以下)の硬度に調整されたものが一般的であり、被削性に優れているのが特徴です。
被削性に優れているのに加えて、切削後に硬度を上げるための焼入れ処理を施す必要があまりなく、
加工後にすぐに製品として利用できる耐久性を持つのがプリハードン鋼の大きなメリットと言えるでしょう。
また、プリハードン鋼は硬度のムラが少なく、切削時のトラブルになりにくいというのも大きな特徴です。
切削加工時のポイント
プリハードン鋼は熱処理によって被削性が高められているため、高硬度でありながら加工性は良好ですが、
さらに加工面の精度を向上させたい場合は切削速度を上げ、構成刃先の付着を防ぐのが有効です。
加工精度に応じて、切り込み量と送り量を調整しましょう。
フライス用ホルダとエンドミルのような切削工具の振れは切削面の精度に大きく影響するため、
振れの管理とホルダの定期点検・交換が必要です。
4.プリハードン鋼加工に使用する工具の選定方法
プリハードン鋼の加工に使う切削工具の選定では、コーティング・振れ精度・切れ刃の精度の3点が重要です。
コーティングは、高速切削に対応したものが推奨されます。一般的には超硬素材の工具を推奨します。
振れに関してはエンドミルの場合、シャンクと切れ刃の振れが5マイクロメートル以内になるよう調整することにより、
仕上げ加工の向上につながります。
(刃振れとは…多刃エンドミルの場合、
ツールホルダ装着時に各刃の外径(半径)を測定した際の測定値の差を刃振れと呼び、刃径公差とは異なります。)
5. プリハードン鋼でよく使われる表面処理
窒化処理
プリハードン鋼は熱処理済みの素材であることに加え、
一部のプリハードン鋼は焼き入れ焼き戻しといった熱処理を行っても効果がありません。
そのため加工後に硬度を向上させたい場合には窒化を行うケースがあります。
窒化処理では処理温度、時間、ガスの種類により、いろいろな特性が得られます。
高機能表面処理Tribecシリーズは各種金型に高い耐摩耗性、優れた潤滑性・耐熱性を付与するために
株式会社プロテリアルが開発した複合PVDコーティングです。
各種金型に必要な高い耐摩耗性、優れた潤滑性、耐熱性を追求。
それぞれの機能性物質の連続積層化が可能な独自の複合PVD技術を確立しました。
- 最適な前処理、洗浄を施すことにより、高い皮膜密着性を実現しました。
- 異なる皮膜を組み合わせることで、複数の機能を併せ持つ金型用コーティング"Tribec"を開発。
各種用途向けに特化した皮膜を取り揃えています。
株式会社プロテリアルはさまざまな用途に応じた皮膜を用意しています。詳細はこちら
- ※4:Tribecは株式会社プロテリアルの登録商標です。
6. まとめ
この記事では、プリハードン鋼の種類、用途、特徴、加工時のポイント、表面処理等を説明しました。
プリハードン鋼を採用する場合は、用途に応じて材質を選択し、適切な加工を行う必要があります。
材質選定や材料加工で困るときは、プロと相談したほうが一番確実になるでしょう。
株式会社プロテリアルは高度な製鋼技術を有し、幅広い製品をラインアップしております。
プリハードン鋼の活用については、お客様の材料用途に合わせて高品質の鋼材供給とソリューション提案をしております。
当社の製品に関するご相談やご質問は、お問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。