TCFD提言に基づく開示

TCFD提言に基づく開示(2023年10月10日)

1.TCFD提言への対応

 「パリ協定」に基づく世界各国の気候変動への取り組みが加速する中、2020年10月に日本政府が2050年までに二酸化炭素(CO2)に代表される温室効果ガス排出量を実質ゼロにするとの政策目標を表明するなど、脱炭素社会への移行に向け、企業にも今まで以上の積極的な取り組みが期待されています。
 当社グループは、気候変動による事業への影響は重要な経営課題の1つであり、ステークホルダーとの信頼関係を構築するためには、気候変動に関わる情報開示の充実が不可欠と考えています。このため、2021年6月にTCFD提言に賛同を表明し、この提言に基づき、気候変動が事業活動に与える影響に関する情報開示を継続的に充実していく方針です。

TCFD | TASK FORCE ON CLIMATE-RELATED FINANCIAL DISCLOSURES
  • TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures):
    G20から気候関連の情報開示に関する要請を受けて、2015年に金融安定理事会(FSB)が発足させた気候関連財務情報開示タスクフォースのこと。TCFDは2017年6月に最終報告書を公表し、企業等に対し、気候変動関連リスクおよび機会に関する項目について開示することを推奨しています。

2.ガバナンス

 当社グループでは、2010年4月に当社グループの「環境保全基本方針」を制定し、グループ一体となって環境経営に取り組んでいく姿勢を明確にしています。また、2021年6月にはTCFD提言への賛同を表明し、同年8月に取締役会への報告を経て、新しい環境方針を「リスクを機会としグリーン成長をめざす」と定めました。
 気候変動対策を含む環境活動推進体制としては、「当社グループの環境委員会(以下、グループ環境委員会)」を設置しています。委員長は環境担当執行役員、事務局はモノづくり技術本部環境戦略部であり、各事業部の事業部環境管理責任者および事業所、グループ会社の環境管理責任者が連携して活動を推進しています。グループ環境委員会では、環境関連規程の整備、環境負荷削減目標の設定、活動が適切で有効に行われていることの確認等を行っています。
 環境活動に関する方針・目標等は、グループ環境委員会において毎年度の環境行動計画として審議・決定しています。気候変動対策についても、この環境行動計画の中で当社グループ内のCO2排出量の削減目標を定め、これに基づき各製造事業所で省エネ活動や再生可能エネルギー利用を推進しています。また、CO2排出量削減の状況はモニタリングにより定期的に把握しており、年1回開催されるグループ環境委員会で前年度の実績および当年度の数値目標、主な取り組み等を共有することにより、継続的に活動の改善を推進しています。
 2021年度以降は、グループ環境委員会の委員長である環境担当執行役(2023年1月以降は環境担当執行役員)が経営会議および取締役会に対し、年2回の頻度で、気候変動対策を含む環境課題への取り組み状況を報告しています。

■ 2022年度の気候変動に関する重要事項の決定状況

年月 気候変動に関する重要事項の決定 会議体
2022年3、4月 環境戦略と取組み状況 経営会議、取締役会
2022年5月 TCFD情報開示 経営会議
2022年9月 GXリーグに賛同 (社長決裁)
2022年10、11月 環境戦略と取組み状況 経営会議、取締役会
2023年4月 GXリーグに参画へ移行 (社長決裁)

■ 環境推進体制

推進体制における各役割
  • 担当役員
    モノづくり技術担当執行役員が環境担当役員として、グループ環境委員会を通して全体を統制する。
  • グループ環境委員会
    当社グループ内の環境活動に関する方針、目標等を審議・決定する。
  • 統括環境管理責任者
    事業部内の環境管理活動を統括する。
  • 環境委員会
    各事業所の環境活動に関する方針、目標等を審議決定する。
  • 環境管理責任者
    各事業所内の環境管理活動に責任を持ち推進する。

3.戦略(シナリオ分析)

 当社グループでは、将来の気候変動がもたらす「リスク」と「機会」を明確にし、「リスク」を低減し、「機会」を拡大するための事業戦略立案に向けて、シナリオ分析に着手しています。シナリオ分析では、サプライチェーンを含むグループ全体を対象とする必要があると認識していますが、2021年度ではシナリオや対象範囲を限定して分析を行いました。2022年度は国内事業に関する分析を実施しました。
 また、2023年度は新体制移行に合わせた事業部毎の国内事業の再評価を行いました。今後は、海外事業を含めたシナリオ分析を推進していきます。

シナリオ分析のプロセス

 異なるシナリオ下における財務影響および事業インパクトを評価するとともに、気候関連リスク・機会に対する当社グループ戦略のレジリエンスを評価することを目的として、図1のステップに沿ってシナリオ分析を実施しています。

■ シナリオ分析の前提

シナリオ
物理リスクを除くリスク・機会については2℃未満シナリオ、物理リスクについては4℃シナリオを参照
対象事業
2021年度:金属材料事業本部(国内事業所)
2022年度:機能部材事業本部(国内事業所)、金属材料事業本部(国内事業所)
2023年度:各事業部(国内事業所)
対象年度
2030年時点の影響

■ 参照シナリオ

区分 主な参照シナリオ
2℃未満シナリオ ・IEA World Energy Outlook 2020. Sustainable Development Scenario
・IPCC RCP2.6
4℃シナリオ ・IEA World Energy Outlook 2020. Stated Policy Scenario
・IPCC RCP8.5

■ シナリオ分析ステップ(図1)

気候変動がもたらすリスクと機会についての検討結果は次の表のとおりです。

区分 タイプ 内容 事業/財務影響 当社の対応
特殊鋼 ロール 配管 自動車
鋳物
リスク 移行 政策・規制 カーボン・プライシング(以下、CPと称す。CPとは炭素税、燃料・エネルギー消費への課税、排出量取引等)に関する規制強化による製造コスト、事業コストの上昇 現在、各種省エネ施策(照明LED化・高効率機器更新・導入)の推進と生産性向上施策により、年率1%以上のエネルギー原単位の改善に取組んでいます。
2050カーボンニュートラルに向け、今後は2030年の削減目標達成に向け追加施策として、燃料の転換や再生可能エネルギー設備の導入(太陽光パネルの設置)の導入を積極的に進めていく計画です。
CPに関する規制強化によるレアメタルを含む原材料及び直補材等副資材の調達コストの上昇 主要原料は、サーチャージの強化を図るとともに、新規サプライヤーの開拓を検討・実施します。
ライフサイクルアセスメント(LCA)の観点ではCO2排出量の少ないスクラップの使用比率を増やし、新規サプライヤーの開拓を進めます。
技術 脱炭素要求に対応した製造プロセス(電化、代替燃料化)導入に伴う設備投資による事業コストの増加 新製造プロセス導入に当たり、事業コストへの影響を軽減するよう設備仕様の検討を行います。
市場 xEV化の拡大による内燃機関周辺部材の売上減少。 車載内燃機関部材は、商用車・農建機分野をターゲットにして需要の取込みを図ります。
脱炭素化による顧客調達基準変更(RE100等の対応要求)による売上減少。 製造工程で発生するCO2を省エネ、再エネ両面で削減を推進し、顧客からの脱炭素化要求への対応を積極的に検討します。
脱炭素社会に向けた新製品開発コストの増加。 従来の事業エリアに捉われず、環境親和製品の開発を進め、順次市場投入を行います。
原料の需要拡大による調達リスクの増加。 海外の合金スクラップや低級原料を活用するプロセスを開発します。
評判 環境親和製品の開発遅延、市場投入遅れからの顧客評価の低下による売上減少。 環境親和製品の開発に、営業部門、研究開発部門の連携を強化し、全社最重要課題として取り組みます。
物理 急性・慢性 異常気象起因による自然災害により操業停止などが発生し、納期遅れなどから受注・売上減少。 異常気象現象を想定した生産体制の改善を計画的に推進します。
BCP体制の拡充、緊急事態発生時の行動マニュアルの精緻化を進めます。
保険費用上昇による事業コスト増大。 過去の災害事例に基づき高波や洪水等の災害が予想される地域は、工場及び製品倉庫の移転、製造ラインの防御他、災害への備えを計画的に実施します。
機会 資源効率 効率的な生産、材料及びエネルギーの有効活用により製品価値を上昇させ売上増加。 2030年の削減目標達成に向け、各種省エネ施策(照明LED化・高効率機器更新・導入)の推進と生産性向上施策等に加え、燃料の転換や再生可能エネルギー(太陽光パネルの設置)の導入も積極的に進めていく計画です。また、その取り組みおよび成果をPRします。
エネルギー源 脱炭素化に取り組むことによる顧客の取引先選定評価のアップからの売上増加。 再生可能エネルギーの導入やカーボンニュートラル燃料への転換等、CO2削減を積極的に推進します。
製品・
サービス
環境親和製品の開発促進・市場投入を行うことによる売上増加。 環境親和製品の開発リードタイムの短縮、コストダウンにより、対象製品の新規受注、シェア拡大を推進します。今後、更なる伸長が期待できる環境親和製品の販売拡大を進めます。
例)
・長寿命化を実現する金型材料
・自動車の燃費効率の向上や排出ガス抑制に貢献する各種産業機械用材料、足回り部品、排ガスフィルタ
・航空機の燃費効率の向上に期待できる航空分野製品
・バッテリー他へ利用される電池用部材(クラッド製品)、パワー半導体材料
・半導体製造装置の省エネを実現できるマスフローコントローラ
市場 環境親和製品の需要増に伴うグローバル新市場への拡販による売上増加。 脱炭素化により、製品の小型化・高性能化・軽量化が進むと予想され、異種の材料特性を活かせる各種合金材料で新用途への展開を図ります。
xEV市場拡大に伴う売上増加。 xEV市場の拡大に伴い、需要の増大が進むリチウムイオン二次電池には、クラッド材料をはじめ多くの製品が使用されており、販売増加を見込んでいます。
区分 タイプ 内容 事業/財務影響 当社の対応
磁材 パワ
エレ
電線 自動車部品
リスク 移行 政策・規制 カーボン・プライシング(以下、CPと称す。CPとは炭素税、燃料・エネルギー消費への課税、排出量取引等)に関する規制強化による製造コスト、事業コストの上昇 現在、各種省エネ施策(照明LED化・高効率機器更新・導入)の推進と生産性向上施策等により、CO2排出量削減に取組んでいます。
今後は、2030年の削減目標達成に向け、燃料の転換や再エネ電力の購入及び再生可能エネルギー(太陽光パネルの設置)の導入も積極的に進めていく計画です。
CP等の規制強化によるレアメタルを含む原材料及び直補材等副資材の調達コストの上昇。 主要原料について、(サーチャージ(価格スライド制)の強化を図るとともに、)新規サプライヤーの開拓を検討・実施します。
(ライフサイクルアセスメント(以下、LCA)の観点で、CO2排出量の少ないスクラップの使用比率を増やすとともに)、磁石事業においては省重希土類材料開発および市場投入により重希土類使用量削減と調達コスト低減を図ります。
技術 脱炭素要求に対応した製造プロセス(電化、代替燃料化)導入に伴う設備投資による事業コストの増加。 新製造プロセス導入に当たり、最新省エネ技術導入等、事業コストへの影響を軽減するよう設備仕様の検討を行います。また、増加したコストは販売価格への転嫁を進めます。
市場 xEV競合サプライヤーとのアジア市場での競争激化により、売価下落や顧客評価の低下により売上減少 高効率設備導入や生産性向上、部品の現地調達化等によりコスト削減を進めます。
銅需要増加に伴う主原料調達ひっ迫による稼働への影響で売上低下 生産性向上による銅使用量削減と新規サプライヤー確保による複数調達ルートの確保に取り組んでいきます。
脱炭素化製品要求への既存製品の対応遅延又は新規拡販の機会喪失による売上減(RE100など) 再エネ導入推進とRE発電比率の大きい電力会社選定により再エネ電力利用比率の向上に取り組んでいきます。
物理 急性・慢性 異常気象起因による自然災害により操業停止など発生し、納期遅れなどから受注・売上減少。 異常気象現象を想定した生産体制の改善を計画的に推進します。
BCP体制の拡充、緊急事態発生時の行動マニュアルの精緻化を進めます。
機会 資源効率 効率的な生産、材料及びエネルギーの有効活用により製品価値を上昇させることによる売上増加。 2030年の削減目標達成に向け、各種省エネ施策(照明LED化・高効率機器更新・導入)の推進と生産性向上施策等に加え、燃料の転換や再生可能エネルギー(太陽光パネルの設置)の導入も積極的に進めていく計画です。また、その取り組みおよび成果をPRします。
エネルギー源 脱炭素化に取り組むことによる顧客の取引先選定評価のアップによる売上増加。 生産性向上による電力使用量削減及び再エネ電力利用率向上を進めます。
製品・
サービス
環境親和製品の開発促進・市場投入を行うことによる売上増加。 低炭素社会に貢献する製品を開発し売上拡大をめざします。
・xEV用各種製品(磁石、SiN,SiC,マグネットワイヤ、自動車電装品等)
・変圧器の高効率化に寄与するアモルファス(MaDC-A)
市場 CP等の規制強化や脱炭素要求による重希土類の調達リスクやコスト上昇により省重希土類へのシフトが加速する 重希土類を多く含む希土類磁石からの置き換えを検討している顧客向けの省重希土類磁石の開発、市場投入やフェライト磁石の特性向上による希土類磁石からの置換え提案により売上拡大をめざします。
xEV:電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)の総称。
RE100:Renewable Energy 100%の略。事業で使う電力を100%再生可能エネルギーで賄うことをめざす国際的イニシアチブ。
事業/財務影響評価の定義

大:売上高※1の5%以上の負担もしくは効果となるもの。
中:売上高※1の1%以上5%未満の負担もしくは効果となるもの。
小:売上高※1の1%未満の負担もしくは効果となるもの。
ー:影響評価対象外

  1. ※1対象事業売上高

以上のとおり、2022年10月31日開示の金属材料事業本部(国内事業所)及び機能部材事業本部(国内事業所)の内容に対して、2023年度の新体制移行に合わせた事業部毎の国内事業の再評価を行った結果、当該事業の戦略について、各リスクと機会への対応を検証し、当社戦略はレジリエンスを有していることが確認できました。

4.リスク管理

 当社グループでは、2022年4月より、グループリスクマネジメント責任者である執行役員の下、「リスクマネジメント委員会(RMC)」を設置し、当社グループのリスクマネジメント力の強化を図っています。この委員会の中では、当社グループを取り巻くさまざまな事業リスクとそのリスクに対するコンティンジェンシープランを集約し、その網羅性および重みづけを評価しています。グループ環境委員会ならびにコーポレート部門や各事業部門にて把握された気候変動に関するリスクは、環境規制等に係るリスクの一つとして、他のリスクと合わせて、RMCに報告されています。RMCは年2回開催予定であり、RMCでの中間および期末のリスク管理状況の評価結果は、経営会議および取締役会に報告されレビューがなされています。

■ リスクマネジメント体制

5.指標と目標

 当社グループでは、Scope1,2のCO2排出削減目標を以下のとおり掲げています。カーボンニュートラルの推進においては、従来からの省エネ活動に加え、設備投資を含むプロセス改善、溶解炉や加熱炉等の燃料転換、カーボンフリー燃料利用の技術開発、再生可能エネルギーの導入等に取り組みます。

■ CO2排出削減目標(グループ全体)

  • Scope1(自社によるCO2の直接排出)
    Scope2(他社から供給された電気・熱・蒸気の使用に伴う間接排出)の絶対量

■ グループ全体のScope1,2実績(千t-CO2

項目 2020年度 2021年度 2022年度
Scope1 777 876 818
Scope2 1,218 1,340 1,095
Scope1+Scope2 1,995 2,216 1,913

Scope3について

 当社では、「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」に基づいて、スコープ3のカテゴリ1~7及び13について算定を行いました。
 2022年度のCO2排出量は全体で2,304千t-CO2であり、その中でも「カテゴリ1:購入した製品サービス」の割合が76.2%と最大となりました。

■ グループ全体のScope3 集計結果

カテゴリ カテゴリ名 2021年度 2022年度
排出量 [千t-CO2] 割合 [%] 排出量 [千t-CO2] 割合 [%]
カテゴリ1 購入した製品・サービス 1,746 74.1 1,755 76.2
カテゴリ2 資本財 115 4.9 106 4.6
カテゴリ3 Scope1,2に含まれない
燃料及びエネルギー関連活動
412 17.5 391 17.0
カテゴリ4 輸送、配送(上流) 38 1.6 24 1.0
カテゴリ5 事業から出る廃棄物 27 1.1 11 0.5
カテゴリ6 出張 4 0.2 3 0.1
カテゴリ7 雇用者の通勤 12 0.5 12 0.5
カテゴリ13 リース資産(下流) 2 0.1 2 0.1
合計 2,356 100.0 2,304 100.0
  • 集計範囲:プロテリアルグループにおいて該当するカテゴリのみで算出
  • 算定方式:環境省DB3.1、IDEA データベース Ver.3.2を使用

■ Scope3 2022年度実績

役員報酬

 当社の執行役員の報酬は、年度ごとの目標値の達成状況に基づき決定されます。2022年度からは、その指標の中に気候変動対応の評価項目として当社グループのCO2排出量削減目標への達成を追加しております。また当該指標を管理職にも適用し、事業運営におけるカーボンニュートラル施策を重要課題として取り組んでいます。

内部炭素価格

 CO2削減を促進するため、設備投資後のCO2排出総量に応じた炭素価格(8,000円/t CO2)を設定し、設備投資によるCO2削減効果を利益として算出する「インターナルカーボンプライシング」の考え方を設備投資に関係する社内規定に追加し、運用しています。(2021年10月)
 炭素価格は、日本国内での再生可能エネルギー調達価格を参考に算定し、定期的に見直しを行います。

過去開示資料(PDF)