TCFD提言に基づく開示

TCFD提言に基づく開示(2025年9月30日)

1.TCFD提言への対応

 「パリ協定」に基づく世界各国の気候変動への取り組みが加速する中、2020年10月に日本政府が2050年までに二酸化炭素(CO2)に代表される温室効果ガス排出量を実質ゼロにするとの政策目標を表明しました。また、2025年2月には、2035年度、2040年度における新たな「日本のNDC(国が決定する貢献)」を国連気候変動枠組事務局へ提出しました。脱炭素社会への移行に向け、企業にも今まで以上の積極的な取り組みが期待されています。
 当社グループは、気候変動による事業への影響は重要な経営課題の1つであり、ステークホルダーとの信頼関係を構築するためには、気候変動に関わる情報開示の充実が不可欠と考えています。このため、2021年6月にTCFD提言への賛同を表明し、この提言に基づき、気候変動が事業活動に与える影響に関する情報開示を継続的に充実させていく方針です。今後は、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)やサステナビリティ基準委員会(SSBJ)の開示基準にも対応していきます。

TCFD | TASK FORCE ON CLIMATE-RELATED FINANCIAL DISCLOSURES
  • TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures):
    G20から気候関連の情報開示に関する要請を受けて、2015年に金融安定理事会(FSB)が発足させた気候関連財務情報開示タスクフォースのこと。TCFDは2017年6月に最終報告書を公表し、企業等に対し、気候変動関連リスク及び機会に関する項目について開示することを推奨しています。

2.ガバナンス

 当社グループでは、2010年4月に「環境保全基本方針」を制定し、グループ一体となって環境経営に取り組んでいく姿勢を明確にしています。また、2021年6月にはTCFD提言への賛同を表明し、同年8月に取締役会への報告を経て、新しい環境方針を「リスクを機会としグリーン成長をめざす」と定めました。
 気候変動対策を含む環境活動を推進するための会議体として、「グループ環境委員会」を設置しています。委員長は環境担当執行職、事務局をモノづくり技術本部環境戦略部とし、各事業部・事業所及びグループ会社の環境管理責任者が連携して活動を推進しています。グループ環境委員会では、環境関連規定の整備、環境負荷削減目標の設定、活動の適切性及び有効性の確認などを行っています。
 グループ環境委員会では、毎年度の環境活動に関する方針・目標を定め、環境行動計画を審議・決定しています。気候変動対策についても、当社グループ内のCO2排出量の削減目標を定め、環境行動計画に基づき各製造事業所で省エネ活動や再生可能エネルギー利用を推進しています。また、CO2排出量削減の状況はエネルギー活動量を定期的に集計しモニタリングを行っています。年1回開催されるグループ環境委員会で前年度の環境活動の実績および当年度の数値目標、主な取り組み等を共有することにより、継続的に活動の改善を推進しています。
 また、経営会議および取締役会において、それぞれ年2回の頻度で気候変動対策を含む環境課題への取り組み状況の報告および気候変動に関する重要事項の審議および決定が行われます。

2024年度の気候変動に関する重要事項の決定・報告状況

年月 気候変動に関する重要事項 会議体
2024年5、6月 環境戦略と取組み状況
  • 2023年度取り組み結果、2024年度取り組み方針
  • TCFD情報開示(海外事業含めたシナリオ分析拡充)
  • 第三者認証取得(GHGプロトコル、GXリーグ対応)
経営会議、取締役会
2024年11、12月 環境戦略と取組み状況
  • 2024年度取り組み状況、第三者認証取得状況
経営会議、取締役会

環境推進体制

推進体制における各役割

■ 環境担当執行職
モノづくり技術担当執行職が環境関連問題に精通した環境担当執行職として、グループ環境委員会を通して全体を統制する。

■ グループ環境委員会
当社グループ内の環境管理活動に関する方針、目標等を審議・決定する。

■ 統括環境管理責任者
事業部内の環境管理活動を統括する。

■ 環境委員会
各事業所の環境管理活動に関する方針、目標等を審議・決定する。

■ 環境管理責任者
各事業所の環境管理活動に責任を持ち推進する。

3.戦略

 当社グループでは、将来の気候変動がもたらす様々な環境変化を想定し、「リスク」と「機会」を明確にし、「リスク」を低減し、「機会」を拡大するための事業戦略立案に向けて、シナリオ分析を実施しました。複数のシナリオ下における財務影響および事業インパクトを評価するとともに、気候関連リスク・機会に対する当社グループ戦略のレジリエンスを評価することを目的として、シナリオ分析ステップに沿って実施しています。当社グループは、リスクと機会に対応するため、2030年度にCO2排出量を基準年度2015年度に対し38%削減、2050年に実質排出量ゼロの目標を掲げ、目標達成に向けて施策の実施を推進しています。具体的には省エネルギー推進、燃料転換、再生可能エネルギー導入等に関する設備投資の拡大、製造プロセスの改善、原材料においてCO2排出量の少ないスクラップの使用比率の拡大や新規サプライヤーの開拓を進めるとともに、自動車の電動化や省エネ・低燃費、長寿命化に貢献する各種材料・製品の開発と販売拡大に努めています。また、異常気象を想定した生産体制の改善にも努め、BCP体制の拡充や緊急事態発生時の行動マニュアルの精緻化を進めます。

■ シナリオ分析の前提

 2℃未満及び4℃シナリオに沿った政策・規制リスク、市場リスクを検討し、機会として脱炭素社会への貢献が期待される当社グループの環境親和製品の市場インパクトを評価しました。今後は、1.5℃シナリオ目標とのギャップを評価し、対応策を評価予定です。

シナリオ:
移行リスク・機会については2℃未満シナリオ、物理リスクについては4℃シナリオを参照
対象事業:
全7事業部(国内および主要海外事業所)
対象年度:
2030年時点の影響

■ 参照シナリオ

区分 主な参照シナリオ
2℃未満シナリオ
  • IEA World Energy Outlook 2020. Sustainable Development Scenario
  • IPCC RCP2.6
4℃シナリオ
  • IEA World Energy Outlook 2020. Stated Policy Scenario
  • IPCC RCP8.5

■ シナリオ分析ステップ

Step1:重要な気候関連リスク・機会の特定、Step2:気候関連シナリオの設定、Step3:各シナリオにおける財務インパクトの評価、Step4:気候関連リスク・機会に対する戦略のレジリエンス評価・さらなる対応策の検討

気候変動がもたらすリスクと機会についての検討結果は次の表のとおりです。

区分 タイプ 内容 事業/財務影響 当社の対応
特殊鋼 ロール 自動車
鋳物
リスク 移行 政策・規制 カーボン・プライシング(以下、CPと称す。CPとは炭素税、燃料・エネルギー消費への課税、排出量取引等)に関する規制強化による製造コスト、事業コストの上昇。 現在、各種省エネ施策(照明LED化・高効率機器更新・導入)の推進と生産性向上施策により、年率1%以上のエネルギー原単位の改善に取組んでいます。
2050年カーボンニュートラルのため、今後は2030年の削減目標達成に向け追加施策として、燃料の転換や再生可能エネルギー設備の導入(太陽光パネルの設置)の導入を積極的に進めていく計画です。
CPに関する規制強化に伴う原材料の調達リスクの増加。 主要原料は、サーチャージの強化を図るとともに、新規サプライヤーの開拓を検討・実施します。
ライフサイクルアセスメント(LCA)の観点ではCO2排出量の少ないスクラップの使用比率を増やし、新規サプライヤーの開拓を進めます。
技術 脱炭素要求に対応した製造プロセス(電化、代替燃料化)導入に伴う設備投資による事業コストの増加。 新製造プロセス導入に当たり、事業コストへの影響を軽減するよう設備仕様の検討を行います。
市場 xEV化の拡大による内燃機関周辺部材の需要減やxEV競合サプライヤーの過剰競争による売上減少。 車載内燃機関部材は、商用車・農建機分野をターゲットにして需要の取込みを図ります。
顧客による脱炭素化要求に対する対応遅延や新規拡販の機会喪失による売上減。 製造工程で発生するCO2の削減を省エネ、再エネ両面で推進し、顧客からの脱炭素化要求への対応を積極的に検討します。
物理 急性・慢性 異常気象に起因した自然災害発生による操業停止に伴う受注・売上減少。 異常気象を想定した生産体制の改善を計画的に推進します。
BCP体制の拡充、緊急事態発生時の行動マニュアルの精緻化を進めます。
区分 タイプ 内容 事業/財務影響 当社の対応
磁材 パワ
エレ
電線 自動車
部品
リスク 移行 政策・規制 CPに関する規制強化による製造コスト、事業コストの上昇。 各種省エネ施策(照明LED化・高効率機器更新・導入)の推進と生産性向上施策等により、CO2排出量削減に取組んでいます。
今後は、2030年の削減目標達成に向け、燃料の転換や再エネ電力の購入及び再生可能エネルギー(太陽光パネルの設置)の導入も積極的に進めていく計画です。
CPに関する規制強化に伴う原材料の調達リスクの増加。 主要原料について、サーチャージの強化を図るとともに新規サプライヤーの開拓を検討・実施します。
磁石事業では、省重希土類材料開発および市場投入を進めます。電線事業では、生産性向上により銅使用量削減、アルミ合金導体ケーブルの開発製品化およびリサイクル銅比率の更なる拡大を進めます。
技術 脱炭素要求に対応した製造プロセス(電化、代替燃料化)導入に伴う設備投資による事業コストの増加。 新製造プロセス導入に当たり、最新省エネ技術導入等、事業コストへの影響を軽減するよう設備仕様の検討を行います。
市場 xEV化の拡大による内燃機関周辺部材の需要減やxEV競合サプライヤーの過剰競争による売上減少。 高効率設備導入や生産性向上、部品の現地調達化等によりコスト削減を進めます。
顧客による脱炭素化要求に対する対応遅延や新規拡販の機会喪失による売上減。 再エネ導入推進と再エネ発電比率の大きい電力会社選定により再エネ電力利用比率の向上に取り組んでいきます。
物理 急性・慢性 異常気象に起因した自然災害発生による操業停止に伴う受注・売上減少。 異常気象を想定した生産体制の改善を計画的に推進します。
BCP体制の拡充、緊急事態発生時の行動マニュアルの精緻化を進めます。
区分 タイプ 内容 事業/財務影響 当社の対応
特殊鋼 ロール 自動車
鋳物
機会 資源効率 効率的な生産、材料及びエネルギーの有効活用による製品価値の上昇に伴う売上増加。 2030年の削減目標達成のため工業炉やボイラーの燃料転換、高効率機器の導入や廃熱利用による省エネ推進および太陽光発電設備のさらなる導入を積極的に進めていく計画です。
エネルギー源 脱炭素化の取り組みに対する顧客の取引先選定評価アップに伴う売上増加。 再生可能エネルギーの導入やカーボンニュートラル燃料への転換等、CO2排出量削減を積極的に推進します。
製品・
サービス
環境親和製品の開発促進・市場投入を行うことによる売上増加。 環境親和製品の開発リードタイムの短縮、コストダウンにより、対象製品の新規受注、シェア拡大を推進します。今後、更なる伸長が期待できる環境親和製品の販売拡大を進めます。
  • 長寿命化を実現する金型材料
  • 自動車の燃費効率の向上や排出ガス抑制に貢献する各種産業機械用材料、足回り部品、排ガスフィルタ
  • 航空機の燃費効率の向上に貢献する航空分野製品
  • バッテリー他へ利用される電池用部材(クラッド製品)、パワー半導体材料
区分 タイプ 内容 事業/財務影響 当社の対応
磁材 パワ
エレ
電線 自動車
部品
機会 資源効率 効率的な生産、材料及びエネルギーの有効活用による製品価値の上昇に伴う売上増加。 2030年の削減目標達成に向け、各種省エネ施策(照明LED化・高効率機器更新・導入)の推進と生産性向上施策等に加え、燃料の転換や再生可能エネルギー(太陽光パネルの設置)の導入も積極的に進めていく計画です。
エネルギー源 脱炭素化の取り組みに対する顧客の取引先選定評価アップに伴う売上増加。 生産性向上による電力使用量削減及び再エネ電力利用率向上を進めます。
製品・
サービス
環境親和製品の開発促進・市場投入を行うことによる売上増加。 環境親和製品を開発し売上拡大をめざします。
  • xEV用各種製品(高性能磁石、SiN,SiC,マグネットワイヤ、自動車電装品等)
  • 変圧器の高効率化に寄与するアモルファス(MaDC-A)
※xEV:電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)の総称。

事業/財務影響評価の定義
大:対象事業売上高の5%以上 の負担もしくは効果となるもの。
中:対象事業売上高の1%以上5%未満 の負担もしくは効果となるもの。
小:対象事業売上高の1%未満 の負担もしくは効果となるもの。

 以上のとおり、各事業について、リスクと機会に対する財務影響評価と対応を検討した結果、当社の環境戦略はレジリエンスを有すると評価しました。2030年のCO2排出量削減目標達成に向けたグループ全体での取り組み及び各事業分野の環境親和製品の開発を計画的に進めることにより、気候変動に伴うリスクを最小化し、低炭素社会への貢献に伴う企業価値向上、成長機会の創出を図ることができると考えています。

4.リスク管理

 当社グループでは、ボトムアップアプローチに加え、トップダウンアプローチ、すなわち、マネジメネント(経営職および執行職)が経営視点で横断的・中長期的なリスクの抽出・統制をするERM(Enterprise Risk Management)体制を構築しています。CRCO(Chief Risk Control Officer)を委員長とするリスクマネジメント委員会(RMC)が、リスクの識別、評価、優先順位付けなどのERMプロセスを実行し、当社グループ全体のERMを推進しています。リスクは「戦略リスク」「オペレーションリスク」「全社リスク」として分類し定義を明確化し、抽出したリスクを影響度および発生可能性ごとに4段階で評価します。評価結果に基づきリスクマップを作成し、Highゾーンに位置付けられたリスクから重要性や緊急性を考慮して優先リスクを選定し、対応策の実行とRMCでのモニタリングにより管理していきます。グループ環境委員会ならびにコーポレート部門や各事業部門にて把握された気候変動に関するリスクは、環境規制等に係るリスクの一つとして、他のリスクと合わせて、ERMの対象リスクとしてRMCによるモニタリング等が実施されています。RMCでは、リスクの対応状況やそのモニタリング結果が共有され、マネジメネントにも報告されています。

リスクマネジメント体制

5.指標と目標

■ Scope1、2について

 当社グループでは、Scope1、2※1のCO2排出量目標を以下の通り掲げています。カーボンニュートラルの推進においては、従前からの省エネ活動に加え、設備投資を含むプロセス改善、溶解炉や加熱炉等の燃料転換、カーボンフリー燃料利用の技術開発、再生可能エネルギーの導入等に取り組みます。

CO2排出量目標(グループ全体)

  1. ※1Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
    Scope2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出

グループ全体のScope1、2実績※2

(千t-CO2
項目 2022年度 2023年度※3 2024年度
Scope1 818 234 213
Scope2 1,096 828 785
Scope1+Scope2 1,914 1,062 997
  1. ※2排出量Scope1、2は第三者認証を取得しております。表示形式により合計が合わない場合があります。
  2. ※32023年度は事業のポートフォリオ見直しを含む効果により、前年度に比べ大幅に減少しています。

■ Scope3について

 当社では、「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」に基づいて、Scope3のカテゴリ1~7及び13について算定を行いました。
 2024年度のScope3排出量は全体で1,871千t-CO2であり、その中でも「カテゴリ1:購入した製品サービス」の割合が80.1%と最大でした。

グループ全体のScope3 集計結果

カテゴリ カテゴリ名 2022年度 2023年度 2024年度
排出量
[千t-CO2]
割合[%] 排出量
[千t-CO2]
割合[%] 排出量
[千t-CO2]
割合[%]
カテゴリ1※4 購入した製品・サービス 1,787 76.5 1,769 83.8 1,499 80.1
カテゴリ2 資本財 106 4.5 115 5.4 113 6.1
カテゴリ3 Scope1、2に含まれない燃料及びエネルギー関連活動 391 16.7 182 8.6 215 11.5
カテゴリ4 輸送、配送(上流) 24 1.0 21 1.0 22 1.2
カテゴリ5 事業から出る廃棄物 11 0.5 7 0.4 7 0.4
カテゴリ6 出張 3 0.1 3 0.2 3 0.2
カテゴリ7 雇用者の通勤 12 0.5 11 0.5 9 0.5
カテゴリ13 リース資産(下流) 2 0.1 2 0.1 1 0.1
合計 2,336 100.0 2,111 100.0 1,871 100.0
  1. ※4Scope3 カテゴリ1は第三者認証を取得しております。
  • 表示形式により合計が合わない場合があります。
  • 集計範囲:カテゴリ1~7(カテゴリ4を除く)およびカテゴリ13はグループ全体。カテゴリ4は国内のみ。
  • 算定方式:2022年度:環境省DB3.1、IDEA データベース Ver.3.2を使用。
    2023年度:環境省DB3.4、IDEA データベース Ver.3.3を使用。
    2024年度:環境省DB3.4、IDEA データベース Ver.3.4を使用。

Scope3 2024年度実績

■ マネジメント報酬

 当社のマネジメント(経営職・執行職)の報酬は、年度ごとの目標値の達成状況に基づき決定されます。2022年度からは、その指標の中に気候変動対応の評価項目として当社グループのCO2排出量目標の達成を追加しています。

■ 内部炭素価格

 CO2排出量削減を促進するため、設備投資後のCO2排出総量に応じた炭素価格(8,000円/t-CO2)を設定し、設備投資によるCO2排出量削減効果を利益として算出する「インターナルカーボンプライシング」の考え方を設備投資に関係する社内規定に追加し、運用しています。これは2021年10月から実施されており、今回、炭素価格の見直しを実施した結果、国内外の炭素税、クレジット、再生可能エネルギー調達価格などを参考に価格を維持することにしました。今後も定期的に炭素価格の見直しを行います。

過去開示資料(PDF)