ダイカスト金型のヒートチェックとは?|発生要因や対策について解説

2023年9月13日

ダイカスト金型のヒートチェックとは?|発生要因や対策について解説

ダイカストで課題となるのが、金型のヒートチェック(ヒートクラック)です。ダイカスト金型の損傷要因にはさまざまなものがありますが、
ヒートチェックが金型を交換するきっかけとなる主な要因です。
交換用の金型を製造するためには、長い期間と費用が必要であり、準備をしている間は生産が止まる可能性もあります。
大きな損害につながるため、金型が損傷しないように要因を特定し、対策をとる必要があります。
ヒートチェックが生じる要因は複合的であり、要因に応じた対策が必要なため、まずは要因の明確化が必要です。
そのうえで、適切な対策を選定する必要があります。

この記事では、ダイカスト金型のヒートチェックについて、概要や要因、具体的な対策方法を紹介します。
これらに関係する課題を抱えている場合には、ぜひ一度ご確認ください。


1.ダイカストとは?

ダイカストとは、溶融した金属を金型に圧入する鋳造方式の一つです。ダイカスト金型はダイカストで用いられる金型を意味し、主に熱間工具鋼を材料として作られています。
ダイカストは、他の鋳造方式に比べて寸法精度や強度の高さが特徴です。また、鋳肌が滑らかで美しいため、切削加工など追加で実施する機械加工もあまり必要とされません。
また、ダイカストは主に自動車向け部品の製造に用いられる他、一般機械や電気機械にも用いられます。

2.ダイカスト金型の損傷形態

ダイカスト金型を使用した製品には高い寸法精度が求められるため、金型の損傷による精度の低下は望ましくありません。
ダイカスト金型の代表的な損傷要因は、ヒートチェック、型割れ、焼き付き、浸食、かじり、変形、折損、へたりなどが挙げられます。
そのうち、ダイカスト金型の交換や補修が必要になる要因の約8割はヒートチェックです。そのためこの記事では、ヒートチェック対策を紹介します。

ダイカスト金型のヒートチェック

ヒートチェック(またはヒートクラック)は、ダイカスト金型に亀甲状の微細なひびが形成される現象です。
ヒートチェックで生じるひびの形態は、鋳造時の温度によって異なります。温度が低い場合は細かく浅い傷、高温で鋳造する場合には、開口部が広く深いひびが多く生じます。そのため、ひびの形態から鋳造時の条件を類推することが可能です。
ダイカスト金型にヒートチェックが生じると、金型表面に生じたひびが製品へ転写してしまいます。転写により製品の形状品位が低下します。また、ひびの結合による大きな欠けやひび進展による金型からの水漏れにつながるため、金型の補修や交換が必要です。
ヒートチェックが発生するメカニズムは、「鋳造サイクルの過程で生じる温度変化で金型表層内に引張りと圧縮の応力が交互に作用すること」だといわれています。

3.ヒートチェックの発生要因と対策

ヒートチェックの発生には、ダイカスト金型のさまざまな要素が関係します。発生要因に基づいて適切な対策を取る必要があるため、ここでは金型材による対策と表面処理による対策、また操業時に注意すべき項目を紹介します。

金型の材料・設計・製造による対策

ヒートチェック対策には、ダイカスト金型を構成する材料、設計や製造における対策が必要です。

金型材質の選定

金型設計や金型を用いて製造する製品の設計時にも配慮すべきポイントがあります。
金型のサイズや製品の厚さ、ゲートの位置、冷却穴の径や位置などが不適切だと、局所的な加熱が生じ、金型の損傷につながります。全体を均等に冷却できるように、冷却水を流す経路を金型に追加する対策が必要です。
また、金型のキャビティ側(凹側)に製品が張り付いてしまうと金型が破損する要因となります。キャビティ側の掘り込み量を見直し、コア側の抵抗を増やすなどの対策が効果的です。

金型製造

ヒートチェックの要因には、ダイカスト金型を加工する際に生じる面の粗さやツールマーク(刃物による加工痕)、放電加工異常層(放電加工で金型を製作する場合)などが挙げられます。
そこで、ヒートチェック対策としては、ツールマークや放電加工異常層をあらかじめ除去しておく必要があります。また、放電加工異常層を引き起こす放電加工を廃止し、代わりに高速ミーリング加工を採用することも対策として効果的です。

表面処理加工による対策

金型による対策だけでは十分な効果が得られない場合、表面処理加工と組み合わせることも効果的です。

ガス軟窒化処理

耐ヒートチェック性の向上には、ガス軟窒化処理が効果的です。金型材の表層に窒素を拡散させることで表面の硬度を向上させ、ヒートチェックの発生を抑制します。
また、ダイカスト金型の金型材や被加工材の特性、加工したい製品の形状にあわせた表面性状の窒化処理を選択することで、効果を最大化できるでしょう。

ショットピーニング処理

ダイカスト金型のヒートチェック対策には、ショットピーニング処理も効果的です。ショットピーニングとは、粒状物を表面に投射することで金型表層への圧縮応力の付与や表層を塑性変形して強度を向上させる処理です。
またガス軟窒化処理とショットピーニング処理を組み合わせることで耐ヒートチェック性だけでなく、耐焼付き性、耐応力腐食割れ性、摺動性、離型性の向上も期待できます。

操業時に注意すべき対策

ヒートチェックを抑制するには、金型そのものや表面処理以外にも、操業時に注意すべき項目があります。
注意すべきは、鋳造時に材料と金型の温度の差を減らすことや金型を冷却する水の量、温度の適正化です。また、鋳造時に加える圧力や射出速度の適正化も注意すべき観点の一つです。

4.まとめ

ダイカスト金型のヒートチェックは、さまざまな要因が複合的に生じることで発生・進行します。そのため対策をする際には、まず要因の明確化が必要です。
要因が特定できたら、金型の材料や設計、加工方法の見直しを検討します。金型に関する対策だけでは不十分な場合、表面処理と組み合わせることでヒートチェックの発生を抑制します。

5.プロテリアルによるヒートチェックの解決策

プロテリアルでは、ダイカスト金型のヒートチェック対策に有効な解決策をラインナップしています。

ダイカスト金型用鋼DACシリーズ

プロテリアルでは、アルミダイカスト技術の多様化に対応した金型材料を、DACシリーズとしてラインアップしています。

               
鋼種名 用途 特長
DAC-P 一般用アルミ、亜鉛合金用型高温強度、靭性のバランスに優れている
被加工性がよく熱処理歪みも小さい
DAC-i 次世代標準ダイカスト金型用鋼成分調整とプロセス革新により靭性と高温強度を高めた 次世代のスタンダード鋼
DAC-X 新高性能ダイカスト金型用鋼成分改良とプロセス革新により従来の高性能材よりも高いレベルでの高温強度を有し、靭性も兼ね備えた新しい高性能ダイカスト金型用鋼
DAC-MAGIC 高性能ダイカスト金型用鋼高温強度、靭性を高次元でバランスさせた高性能金型用鋼 耐ヒートチェック性、耐応力腐食割れ性、被削性に優れている

ダイカスト金型に必要とされる高温強度と靭性を両立できる材料、さらにはヒートチェック対策に効果的な表面処理性に優れた材料を提案できます。

プロテリアルのダイカスト金型用鋼はこちら

こちらから資料(カタログ)が無料でダウンロードできます

表面処理

プロテリアルでは、金型材の提案に組み合わせることで効果を最大化できる独自の表面処理技術を提案できます。

NVG処理

用途別に表面性状を最適化した真空ガス軟窒化処理である「NVG処理」をラインアップしています。ダイカスト金型のヒートチェックの抑制には、そのなかでも「NVG-B1処理」という化合物レスの浅い窒化処理が効果的です。初期の小さなヒートチェックの抑制により、金型寿命向上の効果が期待できます。

Hi-BSC処理

NVG処理以外にも、ショットピーニングを応用した特殊金属の拡散でさまざまな特性を付与できる「Hi-BSC(ハイビス)処理」をラインナップしています。表面に圧縮応力を付加することで、ヒートチェックの抑制につながります。
また、Hi-BSC処理はヒートチェック対策だけでなく、耐焼付き性や耐応力腐食割れ性、摺動性、離型性などの向上も期待できる表面処理です。金型材と表面処理は組み合わせを最適化により効果を最大化できます。

ダイカスト金型の表面処理についてはこちら (㈱プロテリアル特殊鋼サイトへ移動します)

ダイカスト金型のヒートチェックに関してお困りの方は、プロテリアルでは要因解析から対策の提案までサポートできるため、お気軽にお問合せください。

当社の製品に関するご相談やご質問は、お問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。

  • DAC, DAC-i, DAC-X, DAC-MAGIC, Hi-BSCは株式会社プロテリアルの登録商標です。

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