鋼材の黒皮(ミルスケール)とは?特徴や除去する方法、黒皮材とミガキ材の違いを解説

2022年10月13日

鋼材の黒皮(ミルスケール)とは?特徴や除去する方法、黒皮材とミガキ材の違いを解説

鋼材の黒皮材(ミルスケール)とは鋼材の表面にできる黒錆の一種で、精度や見た目の観点から、一般的には除去されるものです。
この記事では鋼材の黒皮について、その特徴や、除去する方法を解説します。
また、あわせて、黒皮材の用途やミガキ材との違いにも触れていきます。ぜひ参考にしてください。


1.鋼材の黒皮(ミルスケール)とは

鋼材の黒皮とは、鋼材の表面に生成される酸化物被膜のことです。別名を、ミルスケールとも言います。
「ミルスケール」とは日本語で「覆う皮膜」「魚の鱗」という意味です。
黒皮は、鋼材を熱間圧延で加工した際に、鋼材の外側に黒色の皮のように発生します。この正体は、黒錆とも呼ばれる酸化鉄です。
熱間圧延の際、鋼材の表面が空気中の酸素と結びつくことで生成されます。
黒皮ができる条件として高温であることが挙げられるため、冷間圧延では黒皮が見られません。

熱間圧延(ねっかんあつえん)とは

熱間圧延とは、金属を、再結晶温度以上の温度で圧延する加工のことです。
高温になり過ぎると金属が溶けてしまうため、約900℃~1200℃の範囲で加工がおこなわれます。
金属を温め、柔らかい状態で加工できる熱間圧延では、変形させる力や残留応力が少ないのが特徴です。
鋼材を硬化させたくない場合に向いている加工方法と言えます。
金属内の空孔も減らすことができ、緻密な結晶粒を作れる一方で、
表面の酸化によって仕上がり状態が粗いことが熱間圧延の難点とされています。

冷間圧延(れいかんあつえん)とは

冷間圧延とは、鋼材を再結晶温度より低い温度で加工する方法です。
冷間圧延の温度は約720℃以下ですが室温で行われるのが一般的で、冷間といってもあえて冷やすわけではありません。
室温下では硬い金属に対して、強い力を加えて加工する方法であるため、加工しすぎると内部がゆがむことがあります。
もちろん金属は硬いままなので、加工する際は強い力が必要です。
ただし、熱間圧延のように酸化被膜が発生しないため、表面がきれいなままで加工できるのがメリットと言えます。

2.そもそも鋼材とは

そもそも「鋼材」とは、鋼鉄の加工品を指す言葉で、住宅、乗り物、家電など、日常生活のさまざまな製品に用いられています。
銑鉄を精錬してから圧延し、板、棒、管など多彩な形に加工されるものです。
鋼材は大きく「炭素工具鋼」「合金工具鋼」の2種類に分けられます。
炭素工具鋼にはSS材やSK材などがあり、また合金工具鋼にはSKS材(特殊工具鋼)やSKD材(ダイス鋼)などに代表されます。
炭素工具鋼か、合金工具鋼かは、炭素の含有量や添加される金属元素によって変わります。

3.黒皮(ミルスケール)の特徴

黒皮にはどのような特徴があるかを知っておくと、除去や用途についてもよく理解できるでしょう。
黒皮の特徴について解説します。

黒皮の表面

黒皮の表面には、目に見えないほど小さな穴(ピンホール)や凹凸があります。
そのため、高い精度が求められる製品や、外見を整える用途には不向きです。
黒皮のままでは使えないことも多く、その場合は表面処理をおこなわなくてはなりません。

黒皮の性質

黒皮の正体は黒錆で、鋼材を腐食から防ぐ性質を持っています。
ただし、黒皮にはピンホールがあるため、ここから腐食が発生してしまうこともあり、黒錆の厚さも決して厚いわけではありません。
したがって防錆剤としての効果は低いと言えるでしょう。

黒皮の扱い方

表面の穴や凹凸、精度等の観点から、黒皮は除去してから鋼材として扱うのが一般的です。
黒皮を除去すると表面が滑らかになり、鋼材としての利用の幅が広がるでしょう。
ただし一部、あえて除去をせずインテリアなどに質感を活用する例も見られます。
黒皮の除去には、科学的な方法と物理的な方法があります。用途に応じて適した方法を選びましょう。
除去の方法は以下で詳しく解説します。

4.鋼材の黒皮(ミルスケール)の除去方法

鋼材の黒皮を除去する2種類の方法について、詳しく見てみましょう。

酸洗いによる科学的な除去

酸洗いは、硫酸や塩酸などの強酸に鋼材を浸けて、黒皮を除去する方法です。
この方法では、熱処理や溶接で発生した黒皮・錆だけでなく、油や手汗といった汚れも落とすことができます。
鉄鋼やステンレスなど、鋼材の種類により、酸の種類も適したものに変えなくてはなりません。
形状が複雑でも、液体のなかに入れれば均等に錆落としできることが、酸洗いのメリットのひとつと言えます。
ほかに、酸洗いの化学反応を利用して、新たに錆が出ないよう、金属表面の不動態化をおこなうこともあります。

ショットブラスト加工による物理的な除去

ショットブラスト加工は、鋼材に細かい砂や、鋼製・鋳鉄製の小さな球(ショット)を吹き付ける、
もしくは打ち付ける(ブラスト)といった方法で、金属表面を加工する技術です。砂や小球のことは投射材と呼ばれます。
投射材が当たることで、鋼材表面にあった黒皮がはがれ落ち、細かな凹凸ができます。
そこへ塗装をおこなうと、表面の凹凸に塗料が入り込み、密着性が上がるといったメリットのある方法です。

5.黒皮材の用途

黒皮材は精度や見た目の観点から、表面加工されるのが一般的ですが、一部に黒皮材のまま使われる場合もあります。
黒皮材は、表面に凹凸があり、ツヤはないものの金属らしさを感じさせる質感を持っています。
そこでインダストリアルやヴィンテージ調の製品に活かされるのです。
表面の凹凸や、色の濃淡をそのまま用いた家具や内装を好む人もいます。
テーブルの脚や階段など、おしゃれな建材やインテリア材料の一部として使われる例もあります。

6.黒皮材とミガキ材の特徴と違い

黒皮材に対して、表面に黒皮のない鋼材をミガキ材と呼びます。黒皮材とミガキ材の特徴と違いを確認しましょう。

黒皮材とは

黒皮材とは、黒皮に覆われたままの状態の鋼材のことを言います。
色は黒く、表面に凹凸があり、また表面が剥がれやすく脆さがあるのも特徴です。
見た目に汎用性が乏しいため、この状態のまま使われることは少ない鋼材です。
他の金属と溶接する場合、塗装する必要のない製品に用いる場合などは、このままで使われることもあります。
また既に言及したとおり、インテリアや建材として黒皮の質感を活かしたい場合も、加工せず使われます。

ミガキ材とは

ミガキ材は、熱間圧延で加工した鋼材を、冷間圧延で再加工したものを指します。
加工後の状態でも、黒皮では覆われておらず、磨いたようにツルツルとした表面をしているのが特徴です。
表面の凹凸もなく、黒皮材に比べると精度は高いため、精度が求められる用途にも対応が可能です。
しかし冷間圧延で加工した鋼材は、熱間圧延に比べて加工の自由度が低くなります。
加工効果や残留応力もふまえたうえで取り扱うことが必要です。

7.黒皮材とミガキ材の選び方

黒皮材とミガキ材は、状況によって選択が可能なこともあります。鋼材のうち、S45CとSS400には、ミガキ材と黒皮材があります。
これに対して、SPCCは冷間圧延の規格材のため、基本的にはミガキ材のみです。H型鋼やI型鋼は黒皮材しかありません。
黒皮材をミガキ材に加工する場合は、手間がかかりますが、必ずコストが高くなるというわけではありません。
ケースバイケースで確認が必要です。

発注するときの注意点

黒皮材とミガキ材の両方が存在する規格については、発注の際にどちらのタイプにするかを指定しなくてはなりません。
「S45C・黒皮材」のように指定しましょう。
「S45C」や「ミガキ材」のみで発注してしまうと、どの材料かが特定できず、入荷ミスの原因にもなるため注意してください。
同じ規格の鋼材を、黒皮材とミガキ材のどちらで扱うかは、コスト、製造時間、鋼材の用途を鑑みながら検討しましょう。

8.まとめ

熱間圧延で加工した鋼材は、表面が酸化するため黒皮が見られるようになります。
黒皮材は多くの場合、用途に応じた方法で黒皮を除去してから加工に使われますが、
そのままかミガキ材にすべきか迷うこともあるでしょう。

ミガキ材にも黒皮材にもそれぞれ特徴があり、どの程度コストがかかるかも用途によって変わります。
発注の方法にも注意が必要です。材質の選定や加工仕様に迷った場合は、プロと相談したほうが良いでしょう。

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