鋼材の熱処理とは?
焼入れから熱ならしまでの行程や材料ごとの処理方法をくわしく解説

2022年8月25日

鋼材の熱処理とは?

鋼材を熱処理すると粘りや強度が出ます。熱処理の主な行程は、焼入れ、焼なまし、焼もどし、焼ならしの4つです。
この記事では、金型などの製造に携わる方へ向けて、鋼材の熱処理の行程や種類について解説します。
鋼材を加工する際の参考として、ぜひ役立ててください。


1.熱処理とは

熱処理とは、鋼材を加熱・冷却して加工する技術のことです。熱処理により鋼材の性質を向上させます。
たとえば、鋼材を軟らかくしたり硬くしたりすることが可能です。また、表面の均一化やサビの防止のためにも活用されています。
熱処理の行程は、焼入れ、焼なまし、焼もどし、焼ならしの4つに分類可能です。

2.変態点(へんたいてん)とは

鋼材は、一定の温度に到達すると組織の構造が変化します。
組織の構造の変化を「変態(へんたい)」といい、変態が起こる温度は「変態点(へんたいてん)」とよびます。
鋼材の種類によって、変態点はさまざまです。変態点は温度を表しているため、「変態温度」と表現される場合もあります。

3.焼入れの目的と種類

ここでは、熱処理の焼入れの目的と種類について解説します。

焼入れの目的

焼入れは、鋼を硬くするために行われます。JISの加工記号は「HQ」です。
すでに触れたとおり、鋼の組織の構造が変化する温度は変態点と表現します。
変態点よりも高い温度になるまで鋼を熱し、一定時間を空けて急速に冷却します。
焼入れは、機械構造用鋼や工具鋼の処理に向いている熱処理の方法です。

≪焼入れの種類≫

真空焼入れ

真空焼入れは、真空状態の炉で熱を加えた後に急速に冷却する方法です。冷却には、ガス、油、水などを使用します。
主に使用されているのは、窒素ガスです。真空にすることで、表面の酸化を防ぎ、製品に光沢を出します。
また、脱炭の防止も可能です。硬さにムラが生じにくくなり、鋼の品質が安定します。

浸炭焼入れ

浸炭焼入れは、本来焼入れには向いていない低炭素鋼を加工するための処理方法です。
低炭素鋼の表面に炭素を浸透させ、高炭素化させたうえで焼入れや焼戻しを行います。
浸炭焼入れを行うと表面が硬くなり、耐摩耗性が向上します。一方で内部は軟らかくなるため、バランスのとれた鋼にすることが可能です。

高周波焼入れ

高周波焼入れは、高周波誘導電流を使って鋼の表面に熱を加える方法です。金属に銅線のコイルを巻きつけ、鋼に熱を与えます。
そのため、一部の箇所をピンポイントで加熱することが可能です。
ほかの熱処理の方法と比べると、特に少ないエネルギーで鋼を加工できます。二酸化炭素の排出量も抑えられます。

窒化焼入れ

窒化焼入れは、鋼の表面の強度を高めるために熱を加える方法です。炉をガスで満たして加工するのが一般的です。
窒素が染み込んでいる部分だけ強度が高くなります。耐摩耗性や耐熱性なども向上させることが可能です。
窒化焼入れで加工すると製品が変形しにくいため、精密部品の強度を上げたい場合にも適しています。

4.焼なましの目的と種類

ここでは、熱処理の焼なましの目的と種類について解説します。

焼なましの目的

焼なましは、鋼を軟らかくするための加工方法です。焼なましをすると鋼の組織を均一化でき、ムラや割れなどを防げます。
焼なましのJISの加工記号は「HA」です。焼なましは、さらに複数の加工方法にわかれています。
具体的には、完全焼なまし、球状化焼なまし、低温焼なましなどです。それぞれについては、以下で解説します。

≪焼なましの種類≫

完全焼なまし

完全焼なましは、鋼をできるだけ軟らかくすることを目的としている加工方法です。
最も一般的な加工方法であり、鉄鋼材料全般に向いています。
完全焼なましを行うと、必要ない残留応力を除去できます。
また、熱間鍛造品や鋳鋼品などで結晶粒が粗大化している場合も、標準組織に戻すことが可能です。

球状化焼なまし

球状化焼なましは、炭化物の球状化により鋼の加工性を高める処理方法です。特に、機械構造用鋼や工具鋼の焼なましに向いています。
球状化焼なましを行うと、完全焼なまし以上に鋼を軟らかくできます。

低温焼なまし

低温焼なましは、完全焼なましや球状化焼なましと比較して簡易的な加工方法です。
鋼の硬度を下げたり、残留応力を除去したりする効果を期待できます。完全焼なましの代わりに行われるケースも多いです。
低温焼なましは、あらゆる鉄鋼材料・非鉄鋼材料の加工に対応できます。

5.焼もどしの目的と種類

ここでは、熱処理の焼もどしの目的と種類について解説します。

焼もどしの目的

焼もどしは、鋼の硬度を下げて粘りを出すための熱処理です。
焼入れや焼ならしをしただけの製品は、そのままでは傷がついたり破損したりする可能性があります。
焼もどしで鋼を処理すると靭性が増し、より丈夫な製品になります。焼もどしのJISの加工記号は「HT」です。

≪焼もどしの種類≫

低温焼もどし

低温焼もどしは、低めの温度で焼もどしする方法です。具体的な温度は、150~200度程度です。
1時間程度かけ、空気により鋼を徐々に冷やしていきます。低温焼もどしは、主に工具鋼の加工に適しています。
低温焼もどしを行うと耐摩耗性が高まり、製品の割れも防止可能です。また、経年劣化に強い製品になります。

高温焼もどし

高温焼もどしは、高めの温度で焼もどしする方法です。
400~650度で処理した後、急速に冷却します。ばね鋼や炭素工具鋼の加工は、400~450度程度で行います。
機械構造用鋼は450~650度程度、高速度工具鋼やダイス鋼などは500~600度程度での加工が最適です。
鋼材の種類に応じて適切な温度で処理する必要があります。

6.焼ならしの目的と種類

ここでは、熱処理の焼ならしの目的と種類について解説します。

焼ならしの目的

焼ならしは、鋼の組織を均一化するための熱処理です。
鋼を単に加工しただけではひずみが生じているため、焼ならしにより組織の状態をそろえる必要があります。
焼ならしを行うと鋼の結晶粒が微細化し、組織が均一化する仕組みです。
焼ならしは、特に機械構造用鋼の加工に向いています。焼ならしのJISの加工記号は「HNR」です。

≪焼ならしの種類≫

普通焼ならし

普通焼ならしは、大気中または噴霧で冷却する処理方法です。小型の部品であれば、大気中で冷却するのが一般的です。
一方、大型の部品は噴霧で冷却します。大型の部品は熱容量が大きく、大気中で冷却しようとすると時間がかかるためです。

二段焼ならし

二段焼ならしは、一定の温度になるまで冷ましたうえで、さらに急速に冷却する方法です。二段階にわけて冷却する点が大きな特徴です。
大型の部品を二段焼ならしで冷ますと、内部に生じる割れを防止できます。
二段焼ならしは、たとえば、新幹線の車輪やレールを加工する際にも活用されている方法です。

二重(ダブル)焼ならし

二重(ダブル)焼ならしは、2回にわけて焼ならしする方法です。1回目の焼ならしで十分な効果を出せなかった場合に実施します。
2回目の焼ならしは、1回目とは異なる温度で行うところがポイントです。
2回目はより低めの温度で焼ならしをし、結晶粒がより微細になるように調整します。

等温焼ならし

等温焼ならしは、約550度の等温炉に製品を入れて一定時間そのままにし、炉から取り出した後にさらにゆっくり冷却する方法です。
主に低炭素鋼を加工する際に採用される焼ならしです。低C合金鋼やS-C材などの被削性を向上させる効果を期待できます。
等温焼ならしは、サイクルアニーリングとよばれる場合もあります。

7.まとめ

鋼材の加工において、熱処理はとても重要です。適切な条件での加熱や冷却により、鋼材の性質を向上させることができます。
熱処理の工程は焼入れ、焼なまし、焼もどし、焼ならしの4つに大別でき、それぞれにより材料の特性を変えることが可能です。
熱処理に対する理解を深め、安定的な製品を製造しましょう。

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