ハイテン材(高張力鋼材)の特徴とは?
メリット・デメリットや活用事例など詳しく解説

2022年5月12日

ハイテン材(高張力鋼材)の特徴とは?

ハイテン材は、高張力鋼材ともいわれ、強度が強くコストパフォーマンスに優れた鋼材です。
自動車産業を筆頭に多くの産業で使用されるようになっています。
この記事では、ハイテン材について特長やメリット、デメリットなど活用事例を交えて詳細に解説します。
ぜひ、自社での活用の参考にしてください。


1.ハイテン材とは?

ハイテン材とは、「High Tensile Strength Steel Sheets」の略称です。
簡単にいえば、引張り強度が強い鋼材のことをさし、「高張力鋼材」ともいわれています。
通常の鋼材の引張り強度が、270Mpa以上なのに対して、ハイテン材は、通常340MPaから790MPaです。
490MPa以上のハイテン材が一般的とされています。

  • MPaとは「M」はメガ(基礎となる単位の百万倍の量)をさし、Paは パスカルのことで圧力や応力の単位です。

2.超高張力鋼板との違い

引張り強度が790MPaを超えて、980MPa以上のハイテン材は、「超高張力鋼板」といいます。
Pa値が高いほど、強度を保ったまま薄くすることが可能です。

3. ハイテン材の特徴

ハイテン材には多くの特徴があります。ここでは、代表的なものを3つ紹介します。

軽量化が可能

ハイテン材の大きな特徴は、一般的な鋼材と比べて引張り強度が高いため、構造物を軽量化できることです。
耐久年数が長くなり、熱を加えたとしても、ハイテン材の安定度が高いため劣化がありません。
一般的な鋼材に比べて炭素含有量が低く抑えられるため、溶接時であっても、熱の影響による硬化が少ないです。

低コストで大量生産に向く

ハイテン材は、優れた鋼材であるため、市場供給量が年々増えています。
市場供給量が増えればコストも下がるため、さらに供給量が増えるという好循環を起こしているのです。
つまり、ハイテン材は低コストで大量生産に向いているということになります。
低コストでありながら高品質であるため、ハイテン材を利用した製品も増えています。

耐食性があり錆びにくい

ハイテン材は、一般的な鋼材と比較して耐食性が高いことも特徴です。
鈴を添加した新しいハイテン材を開発し、沿岸部や凍結防止剤が散布されるような、
高塩分環境の下であっても、優れた耐食性を発揮しているハイテン材もあります。
石油タンクや水圧管など、風雨にさらされる環境での使用にも向いているのです。

4.【自動車産業】ハイテン材の需要が高まっている背景

自動車産業においてハイテン材の需要が高まっている背景は、モノコックシャーシーが登場し、
車のボディ構造が鉄で作られるようになったことが起因しています。
モノコックシャーシーとは、ボディと車台(シャーシー)が一体化されている構造を制作する技法をさします。
モノコックシャーシーなら、フレームとボディを同時に作るため、
従来よりも強度が高く、効率的に車内スペースを確保できて、軽量化も可能です。
モノコックシャーシーのデメリットである形状の複雑化を補うために、加工しやすくて強度が高いハイテン材の需要が年々高まっています。

5.ハイテン材のメリット

ハイテン材のメリットは、薄くても張りがあるため、これまでよりも鋼板の厚みを薄くできることです。
鋼板が薄くてもこれまで以上の剛性があるため、大幅な軽量化が実現できます。
自動車産業で、軽量化に成功すれば、燃費を上げる効果も発生します。
つまりハイテン材を利用することで、ボディの剛性が高まり大幅な軽量化を実現し、燃費を上げることができるのです。

6.ハイテン材のデメリット

ハイテン材のデメリットは、強度が高いため成形荷重も高くなることです。
成形荷重は、プレス成形機で成形を押し固めるのに必要な力のことをさします。
ハイテン材をプレスするためには金型自体の強度が求められるため、プレス成形中に破断が起こる可能性もあり、
成形が難しいといえます。剛性の低下を避けなければいけない部分には使えない点もデメリットです。

7.ハイテン材の活用事例

ハイテン材は、自動車産業だけでなく多くの産業で活用されています。ここでは、自動車を含めた3つの活用事例を紹介します。

自動車部品や車体

ハイテン材を進化させた、超高張力鋼の開発を最初に成功させたのは当社です。
このハイテン材は、通常の鉄の3倍以上の強度があるため、鉄の1/3以下の量で強度を維持したまま、自動車の部品や車体を作れます。
自動車の軽量化素材にはアルミやカーボンがありますが、仮に性能面で優れているとしても、生産コストがハイテン材よりも大幅に高くなります。

クレーン車

ハイテン材は耐久性や耐食性に優れているため、クレーン車にも使用されています。
クレーン車のシャーシーの強度補強には、ハイテン材が使用されているのです。
強度計算した設計図によりハイテン材を溶接すれば、飛躍的にシャーシーの強度が上がります。
つまり、ハイテン材はクレーン車の構造に適しているのです。

原油・燃料タンク

ハイテン材は耐食性が高いため、原油や燃料タンクにも使用されています。
他にも石油や天然ガスのラインパイプ、石油タンク、水圧鉄管、ボイラー、都市ガスタンク、LPGタンク、
ロケット燃料タンクなどにも使用されています。ハイテン材は、低コストで耐久性や耐食性が高いため、自動車産業以外にも活用されています。

8.代表的なハイテン材

ハイテン材にもさまざまな種類があります。ここでは、代表的なハイテン材を2つ紹介します。

WEL-TEN | 日本製鉄株式会社

日本製鐵株式会社が製造するハイテン材は、「WEL-TEN」シリーズです。
熱延鋼板とも呼ばれ、豊富な品種と安定した品質が評価されています。大きな特長は次の4つです。

  • 豊富な品種:軟鋼版からハイテン材まで多種多様な熱延鋼板を製造できる。
  • 安定した品質:優秀な設備や豊富な経験から安定した生産が可能。
  • 豊富なサイズ:1.2mmから25.4mmまでの厚さで、幅は600mmから2,180mmまでの熱延鋼板を製造可能。
  • ゆきとどいた技術サービス:ユーザーが求める用途や加工方法、技術的協力などゆきとどいたサービスを提供。

JFE-HITEN|JFEスチール株式会社

「JFE-HITEN」は、JFEスチール株式会社が製造するハイテン材です。
構造物や圧力容器の大型化・高圧化に対応できるように開発されたハイテン材であり、溶接構造物や圧力容器等の安全性も高くなっています。
JFE-HITENの特徴は次の6点です。

  • 重量を軽減できる
  • 溶接性に優れている
  • 靭性が優れている(靭性:構造物や素材または部材の強度やねばり強さ)
  • 材質が均一で表面が美麗
  • 加工性が良い
  • 幅広や長尺のJFE-HITENを製造できる

9.ハイテン材を加工する上での注意点

ハイテン材を加工する場合はいくつかの注意事項があります。ここでは、重要な3つの注意事項を解説します。

延性の低さによる溶接割れに注意する

ハイテン材は、延性に乏しい素材です。
延性とは、材料の伸ばしやすさのことであり、物体が弾性の限界を超えても破壊されずに伸ばされることをさします。
延性が乏しければ、プレス成形中に破断を引き起こす可能性があります。
引張り強度が高いほど、延性が低くなるため、溶接割れに注意が必要です。
高温での溶接であれば、溶接割れの1つである延性低下割れが起こる可能性があります。
できる対策として、質の高い鋼材を使うようにしましょう。

特性が異なる鋼材と溶接する際には溶接割れに注意する

ハイテン材は、特性が異なる鋼材と溶接する際には、溶接割れに注意が必要です。
軟鋼との溶接加工時などは、遅れ割れが起こるリスクがあります。
遅れ割れは、鋼材の中の水素が割れの起点となる箇所に、一定量集積することで起こります。
水素が起点に集まるまでには時間を要するため、溶接後一定時間を経過した後に溶接割れが生じます。
ハイテン材を特性が異なる鋼材と溶接する場合は、適切な予熱を行うことによりリスクを軽減できます。

スプリングバックを想定した設計をする

ハイテン材の加工は、スプリングバッグのリスクがあるため、それを想定した設計をする必要があります。
スプリングバックとは、プレス加工などで材料を曲げた時に、材料が元に戻ろうとする現象です。
ハイテン材は引張り強度が非常に高く、圧倒的な強度があるため、スプリングバッグの強さも相当なものになります。
設計段階でスプリングバックを想定して加工しなければ、加工後の製品が想定外の形状になるかもしれません。

10.まとめ

ハイテン材とは、引張り強度が340MPaから790MPaもある強靭な鋼材です。
薄くても強度があり耐食性も高いため、製品の軽量化に活用されたり、海辺などでも能力を発揮したりしています。
当社はハイテン材を加工する金型材を製造し提供しています。
ハイテン材の活用を検討する場合は、ぜひ当社にご相談ください。
お客様のニーズに合わせて材質を提案し、より満足できる金型材料を提供いたします。

当社の製品に関するご相談やご質問は、お問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。

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