リニアモータとは?
仕組みや特徴、工作機械へ適用する際の課題と事例を解説

リニアモータとは?仕組みや特徴、工作機械へ適用する際の課題と事例を解説

リニアモータ(リニア同期サーボモータ)とは、高速・高精度を実現するための駆動装置です。
工作機械をはじめ、さまざまな分野で採用されることが増えてきています。多くの方に馴染みあるのは、鉄道用リニアモータではないでしょうか。
こちらも分類的には工作機械用と同じリニア同期サーボモータとよばれます。
しかし、磁気浮上して走行抵抗を減らしつつ高速移動する鉄道用リニアモーターカーと、
磁気浮上はせずに高速性と位置決め精度を追及する工作機械用リニアモータ。用途によって、要求される性能が大きく異なります。
この記事では、実際に工作機械に採用する際の課題と具体的な採用事例について解説します。
リニアモータの特徴や仕組みや構造、工作機械でボールねじと回転型モータの組合せから
リニアモータへの置き換えが検討されている理由などを交えてわかりやすく説明します。
工作機械へのリニアモータ搭載を検討される方は、ぜひ一度ご覧ください。


1. リニアモータとは

リニアモータとは、主に直線運動を行う回転軸を持たない電気式モータのことです。
ここでは、工作機械への採用が増えているリニアモータの構造や動作原理、リニアモータの呼称について解説します。

リニアモータの構造と動作原理

リニアモータの構造は、一般的な回転型モータを直線状に引き延ばしたもので、磁石のN極とS極が交互に直線状に配置されています。
このリニアモータのコイル部分に電流を流すことで交番磁界を発生させて、磁気吸引力や反発力から直進方向の駆動力を得ています。
なお、工作機械用リニアモータは、リニアガイドと呼ばれる部品を組合せて使用するのが一般的です。
リニアガイドは、直線軌道の確保のみならず、軌道と直交する方向の荷重を支える機能も果たします。

リニアモータの呼称・種類

リニアモータの種類としてよく挙げられるのが、リニア同期サーボモータやリニア誘導モータ、リニアステッピングモータなどです。
なかでも工作機械や鉄道に採用されるリニアモータを、リニア同期サーボモータとよびます。
"同期"という言葉はリニアモータに限らず回転式モータにも使われており、高い位置決め精度を得るのに必要なモータの制御方法です。
一方、非同期モータには、誘導モータが挙げられます。
また、"サーボ"とはその仕組みに関わらず、モータの位置や速度を制御できれば、サーボモータとよぶことができます。
工作機械用の高速・高精度なリニアモータを他のモータと分類するには、リニア同期サーボモータとよぶのが望ましいでしょう。
なお、鉄道用のリニアモータも、リニア同期サーボモータに含まれます。
鉄道用のリニアモータの特徴は、磁気的に浮上し走行抵抗を減らすことであるため、
磁気浮上型リニア同期モータとよぶのが望ましいでしょう。鉄道用リニアモーターカーは、磁気浮上技術を適用しています。
リニアモータという言葉そのものが磁気浮上技術、もしくは磁気浮上装置の意味合いをもつと連想されますが、
リニアモータに磁気浮上が必須という訳ではありません。
それぞれのモータをこの様によび分ければ、呼称の違いを起因とする誤解を減らせるでしょう。

リニアモータの種類

また、リニア同期サーボモータは「コア」とよばれる鉄心の有無によって、コア付き型とコアレス型の2種類に分類されます。
コア付き型のリニアモータは、コアレス型に比べてモータ出力が高いものの、モータ出力の脈動が生じ易く、
さらに出力と直交方向に大きな磁気吸引力を生じるため、モータ取り付け部分に高い剛性が必要です。
特に小型で大出力のリニアモータを必要とする場合には、さまざまなメーカが用意しているリニアモータの特性を、
種類ごとに確認することが重要です。使用目的にあったリニアモータを選択しましょう。

2. リニアモータが工作機械に使用される背景

リニアモータ(リニア同期サーボモータ)が工作機械に採用されるようになった背景にあるのが、
従来の回転型モータとボールねじの組合せに対する技術課題です。
その課題の解決が期待されるリニアモータには、どのような特徴があるのでしょうか。

回転型モータとボールねじの組合せと、リニアモータとの違い

工作機械の動力伝達機構には、従来、回転型モータとボールねじの組合せが使われていました。
ボールねじは回転型モータでボルト部分を回し、ナット部分に取付けたステージを直線方向に動かす構造です。
ボルトとナットのねじ溝部分にボール(ベアリング)を組み込むことで、
回転時に発生する摩擦抵抗を小さく抑え、滑らかに駆動させることができます。
一方で、リニアモータはボールねじのように機械要素を接触させることはありません。磁力を用いて直線方向の軸力を生み出しています。

回転型モータとボールねじの組合せの課題

【課題1】高まり続ける機械精度の要求を満たせない

近年、高性能な産業機器や工作機械で求められるのが、加工の高速化と高精度化の両立です。
従来よりも高速で、なおかつ高い位置決め精度が求められています。
従来使われていた回転型モータをボールねじで直線運動に変換する構成では、
すでに機械精度が限界領域まで開発されており、位置決め精度の大幅な向上は期待できません。
精度向上が見込めない要因として、ボールねじのバックラッシュやロストモーションが挙げられます。
バックラッシュとは、ボールねじの機械構成部品である歯車同士が干渉しないように、意図的に設けられる歯車間の隙間のことです。
また、ロストモーションとは、異なる方向から同一の位置に停止させた場合のボールねじの位置ずれを指し、
ボールねじの剛性に大きく関わります。
それらのバックラッシュやロストモーションの影響を受けない、高速・高精度の位置決め手段が求められています。

【課題2】ストローク量に制限がある

回転型モータとボールねじの組合せの場合、構造上の理由によりストローク量に制限が生じます。
ストローク量を大きくするには、ねじを太く長くする必要がありますが、太くて長いねじは体格が大きくなり、高速化も困難です。
一方、小型でありながらストローク量に制限のないリニアモータであれば、設備設計の自由度を高めることができます。
他にも、潤滑用のグリースを塗布する必要があるボールねじには、駆動時にグリースが飛散してしまうという課題もあります。
では、リニアモータは回転型モータとボールねじの組合せの課題をどう解決してくれるのでしょうか。

リニアモータの特徴

【特徴1】高速・高精度であり精度の経年劣化が起きにくい

リニアモータは、ボールねじのような機械の接触要素が少ない(リニアガイドのみ)ため、
バックラッシュやロストモーションによる精度の低下が発生しないという特徴があります。
また、一般的な機械要素は駆動時に摩擦を生じるため、長い期間使用すると機械精度が低下します。
一方、リニアモータは摩擦が発生しにくい構成となっているため、使用中の摩耗による精度の劣化をほとんど生じません。
摩擦の影響を考慮する必要がないため、高速で長期間使用しても高精度を維持しやすいという特徴があります。

【特徴2】メンテナンス性に優れている

リニアモータのメリットは、メンテナンス頻度を最低限に抑え、かつ1回あたりの時間を短縮できる点です。
工作機械のメンテナンス時には生産を止める必要がありますが、
リニアモータは回転型モータとボールねじの組合せに比べて摩擦部品が少ないため、短い時間で作業を完了できます。
また、摩擦による精度の低下が生じにくいため、頻繁にメンテナンスをおこなう必要もありません。
これらの特徴から、リニアモータは幅広い用途に使われるようになっています。

3. リニアモータを工作機械のアクチュエータに採用する際の課題

回転型モータとボールねじの組合せの代わりに、
工作機械の動力伝達機構としてリニアモータ(リニア同期サーボモータ)を採用する場合には、以下のような課題が想定されます。

限られた搭載範囲で高い精度・速度・駆動出力が求められる

工作機械は、工場内の限られたスペースに設置します。そのため性能を確保した上で、できるだけ小型に設計・製造することが重要です。
リニアモータは直動装置とも呼ばれ、回転型モータとボールねじの組合せと違って減速比をとれません。
工作機械にリニアモータを採用する場合は、回転モータよりも大きな出力が必要不可欠です。
また、リニアモータは、必要なモータ出力と限られたスペースに搭載できるモータ体格の両立を求められます。
いかに体格を大きくせず、必要な出力を満たすかが重要なポイントです。
これを実現するために重要なのは、リニアモータの出力密度を高めることです。
さらに短時間で高精度の切削加工を実現するためには、
工作機械の駆動部となるリニアモータに高い位置決め精度と移動速度の両立を求められます。

使用環境が過酷である

リニアモータを工作機械に搭載する場合、特に環境面への配慮が必要です。金属や樹脂などを切削加工する工作機械に搭載する場合には、
リニアモータが削りくずや切削時に使用される切削油にさらされる可能性があります。
工作機械に求められるのは、厳しい環境下で長時間使用を続けても、高い位置決め精度と速度を維持し続けることです。
そのためには、耐油性などを考慮したリニアモータを採用する必要があります。
リニアモータに求められる耐環境性は、切削油や削りくずの影響を受けないクリーンな環境で使用する場合と比較して厳しくなります。
リニアモータ側の耐環境性を高めるとともに、搭載する設備側でもリニアモータに影響を与えないような工夫を行うことが重要です。

稼働時の発熱によるワークへの影響

リニアモータの発熱により、加工するワークが変形してしまう可能性があります。
そこで重要なのが、発熱が小さいリニアモータの選定や工作機械への組込みの際に冷却できる構造にすることです。
特に研削盤や放電加工機などに採用する場合、発熱で設備の熱変形が発生します。
加工精度への影響が大きいため、熱変形をおこさないように冷却対策を行います。

規格品では対応できない可能性が高い

工作機械が同一仕様で大量生産されるケースはまれで、多くは用途に合わせて独自に設計されています。
例えば、従来使われていた回転モータとボールねじを組合せた搭載スペースへ置き換えとなるリニアモータを収める必要があったり、
工作機械メーカ独自のニーズがあったりするため、規格品のリニアモータは搭載できない場合があります。
上記のように工作機械メーカはリニアモータに対してさまざまなニーズを持ち合わせています。
そのため、リニアモータのサプライヤを選定する際は、カスタム対応ができるかどうかを確認するのがポイントです。
特注する際の検討要素は、小型化や大出力化、速度や位置決め精度など多岐にわたります。
まずは工作機械の開発に着手する早期の段階で、ニーズを当社に展開できないか検討していただく必要があります。

制御が難しい

リニアモータは一般的に、モータ制御時の外乱に弱い構造です。回転型モータとボールねじの組合せに比べて制御が難しいといわれています。
しかし、高い加工精度を実現するためには、状況に応じた細かい制御を行うことが必要不可欠です。
リニアモータの制御性を高めるためには、サーボ系の高ゲイン化や構造物の共振周波数を高く設計することなどが知られています。
また、外乱の影響を受けやすいという課題を解決するために、
外乱を推定して制御に活用する外乱オブザーバ制御などが効果的な対策となるでしょう。

4. 工作機械におけるリニアモータの用途例

リニアモータ(リニア同期サーボモータ)を搭載したアクチュエータを採用している工作機械の事例について紹介します。

マシニングセンタ 

マシニングセンタの駆動軸には、リニアモータを採用したものが開発されており、すでに広く使われています。
また、多軸のマシニングセンタの場合、すべての軸に採用されることが多く、
高速・高精度で加工できるため時間を大幅に短縮することが可能です。
一方で、駆動軸数が多くなればなるほど、搭載するリニアモータの数が増えるため、コスト面の懸念があります。
回転型モータとボールねじの組合せは、大量生産されていることもあり、リニアモータに比べると安価です。
リニアモータも工作機械での採用が増えていくことで、ボリュームメリットによるコスト低減が期待されています。

切削・研削加工機

リニアモータの用途は、マシンニングセンタのような複合加工機だけでなく、切削や研削加工機のような専用機にも広がっています。
特に、研削加工では高い加工精度が求められるため、加工精度向上と加工時間短縮を高い水準で両立させるリニアモータが効果的です。
一方で、発熱による加工精度の影響は、注意が必要です。
工作機械を設計する際には、発熱による影響を押さえるために冷却性を確保できるような構成にするのが望ましいでしょう。

放電加工機

リニアモータは、「形彫り放電加工機のヘッド部」や「ワイヤ放電加工機のベッドとテーブルの間」に搭載されたものが開発されています。
また放電加工機もマシニングセンタ同様に、3軸や4軸など複数の軸に搭載されたものも開発。
高い制御技術を活かして要求される加工精度を実現しています。
リニアモータを用いた放電加工機の中には、各部位の温度をセンサーで取得し
そこから取得できる各部位の温度変化などの情報をもとに、自動で高精度な加工を実現できます。
また、放電加工機にリニアモータを採用する場合にも、研削加工機と同様に発熱によるワークへの影響があるため、
冷却手段に関しては考慮が必要です。

5. まとめ

この記事では、リニアモータの概要や特徴、工作機械に使用されている回転型モータとボールねじの組合せとの違いなどを解説しました。
リニアモータを工作機械に搭載する場合には、今回紹介したようにさまざまな課題が想定できます。
工作機械にリニアモータを採用することを決めたのであれば、今回紹介したような項目への対策について、
十分に時間をかけて検討するのが望ましいでしょう。

(株)プロテリアルは、半導体やフラットパネルの製造装置を中心に、幅広い産業機器へ採用されているリニアモータを開発・販売しています。
コア付き型もコアレス型もどちらもラインナップしているため、目的に合わせた選択が可能です。
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