水素分離膜用ニオブ合金箔、実用化に向けた開発開始
2012年2月28日
日立金属株式会社
日立金属株式会社(本社:東京都港区 社長:藤井博行 以下、日立金属)は、高価なパラジウム合金※1の代替となる水素分離膜※2用ニオブ合金※3箔の実用化に向けた開発に着手しました。2015年の量産開始を目指し、到来が期待される水素エネルギー社会に貢献いたします。
1.背景
水素は、透明なガラス、半導体、油脂類などの生産に必要であり、産業用途で広く使用されています。さらにクリーンなエネルギー源としても注目されており、水素エネルギー社会の到来が期待されています。
水素の製造は、主に天然ガスなどの化石燃料と水蒸気を反応させる水蒸気改質法によって行われています。製造したガスは、二酸化炭素などの不純物が多く含まれる混合ガスであるため、産業に必要な高純度水素を得るためには精製が必要となります。精製には、不純物を吸着することで純度を高めるPSA(Pressure Swing Adsorption)方式が主に使われていますが、PSA方式は、設備が大型で複雑なプロセスであることから初期投資費用、運転費用、メンテナンス費用が高価になるデメリットがありました。
そこで、システムが小型でシンプルな上に省エネルギーな水素分離膜による水素精製が注目されています。水素分離膜は、混合ガスから水素だけを透過することができるフィルターとして機能する膜であり、水素を精製することが可能です。しかしながら、現在、実用化されている水素分離膜は、パラジウム合金を使用しており、原材料費が高価であることが課題となっていました。
2.概要
日立金属は、水素分離膜の原材料費を低減するため、北見工業大学 青木名誉教授および株式会社アルバック保有の特許技術であるニオブ合金を使用する水素分離膜に着目し、その実用化に向けた開発に着手することにしました。ニオブ合金箔の合金組織の最適化による性能の向上と、その量産技術にいたるまで開発を行い、2015年の量産開始を目指します。
3.特長

- 1原材料費が安価
高価なパラジウム合金の代わりに、水素透過能※4と耐水素脆性※5を両立する安価なニオブ合金を使用して、パラジウム合金水素分離膜とほぼ同等の性能が得られます。 - 2量産のための大きな設備投資が不要
ニオブ合金箔は、帯状の金属素材であり、リードフレーム材や剃刀替刃材などを生産する設備の利用が可能なため、量産には大きな設備投資が不要です。
- 本ニオブ合金箔は、第8回[国際]水素・燃料電池展(FC EXPO 2012)(会期:2012年2月29日(水)~ 3月2日(金)、於:東京ビックサイト)に出展いたします。
- 本ニオブ合金箔の開発開始に至るまでの技術的な基礎検討は、株式会社日立製作所の協力を得て行いました。
以上
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コミュニケーション室 担当 南 TEL03-5765-4079
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ご参考
[用語解説]
- ※1パラジウム合金
白金族元素の一つであるパラジウムをベースとした合金。水素分離膜として優れた特性を有しているものの、非常に高価である。 - ※2水素分離膜
水素は通すが他のガスは通さない、フィルターとしての機能を有する金属やセラミックス製の膜材料。 - ※3ニオブ合金
ニオブは金属元素(バナジウム族の元素)の一つで、耐熱合金材料や超伝導材料などに用いられる。また、金属の中でも優れた水素透過能を有しているが、水素を吸収して脆化し、壊れやすくなるという特徴がある。本開発のニオブ合金では種々の元素を添加し、合金とすることで水素脆化を抑制している。 - ※4水素透過能
水素が膜を透過する速度の指標。水素透過能が高いほど、より効率よく水素を精製することができるようになる。 - ※5耐水素脆性
金属が水素中でも壊れにくい性質のこと。一般に、金属は水素を吸収すると脆くなって壊れやすくなることが知られている。しかし水素分離膜はフィルターの役割を担うために、水素中でも壊れないこと、すなわち高い耐水素脆性が要求される。