ネオジム磁石とは?
特徴や課題、高性能化のポイントを解説

2023年9月28日

ネオジム磁石とは?特徴や課題、高性能化のポイントを解説

現在、実用化されている永久磁石のなかで、もっとも強力な磁石がネオジム磁石です。強い磁力と入手のしやすさから、自動車や産業用製品を中心に、さまざまな分野で幅広く採用されています。

また、ネオジム磁石を使用する製品の小型化や高性能化を目的として、磁石を扱う企業では高性能化に向けた技術開発が進められています。ネオジム磁石の高性能化が実現できれば用途は広がるため、今後も需要は拡大し続けていくでしょう。一方で、ネオジム磁石の生産にはレアアースを使用するため、材料の調達に関する課題があります。

この記事では、ネオジム磁石の概要や強力な磁石である仕組み、小型化、高性能化に向けたポイントや原材料の供給リスクを解説します。


1. ネオジム磁石とは?

ネオジム磁石は、1982年にプロテリアル(当時は住友特殊金属株式会社)で発明された磁石(商品名:NEOMAX®)で、現在実用化されている磁石の中でもっとも強力です。希土類(レアアース)を原料としていることから、希土類磁石に分類されます。
広く流通しているフェライト磁石と比較して、ネオジム磁石の磁気的なエネルギー密度の最大値は8倍程度高く、取り扱いには注意が必要です。ネオジムは「ネオジウム」や「ネオジ」と表現されることもありますが、「ネオジム」が正しい表記です。

ネオジム磁石が開発されるまでは、サマリウムコバルト磁石がもっとも強力でした。しかし、ネオジム磁石はサマリウムコバルト磁石よりも強力なうえ、資源的に余裕がある原料で製造できる点が画期的であり、注目を集めました。ネオジム磁石は、磁力の強さと入手性の高さから、現在も幅広い用途に採用されています。
当初は、主に情報機器(ハードディスクドライブ)などの軽薄短小化を目的に採用されました。その後、高温で使用可能なネオジム磁石の開発とともに、自動車用途(電動自動車の駆動モーターなど)に展開。省エネや地球温暖化を抑制するための手段として、重要な材料です。

強い磁石・強力な磁石とは

強力な磁石とは、同一サイズで外部に供給できる磁束(磁力線)の量が多い磁石のことです。性能を示す具体的な指標としては、残留磁束密度(Br)が用いられます。
一方で、モーターでは巻線に供給される電流が作る磁界(外部磁界)と磁石が作る磁束で力が発生します。例えば、中学校で習うフレミング左手の法則が挙げられます。
また、磁石は外部磁界に対して安定して使用できることが必要で、保磁力(HcJ)が性能を示す代表的な指標です。磁石が使用される全温度域で十分なHcJが確保されることが必要です。

2. ネオジム磁石の特徴

ネオジム磁石は、以下のような特徴を持ちます。

幅広い製品へ採用できる

ネオジム磁石は、現在実用化されている磁石でもっとも強力です。さらに、ネオジム磁石は粉末冶金法で製造できるため形状の自由度が高く、モーター設計の多様な要求に応えられます。
また、ネオジム磁石は機械的強度も優れており、高い信頼性が要求される製品へも採用されています。ネオジム磁石の次に磁力が強いサマリウムコバルト磁石よりも、強度が大幅に改善されています。

高い温度での磁力低下と耐食性に劣る

ネオジム磁石は高温下では保磁力(HcJ)が大幅に低下します。高温での使用時にも必要なHcJを確保するために、ベースとなる室温での保磁力を高めておく必要があります。
また、耐食性に劣り、錆びやすいため、製造時には錆が発生しないように注意が必要です。産業用機械では長期間の使用が必要となるため、防錆を主な目的とした表面処理が一般的に施されます。

3.ネオジム磁石の主な用途

強力な磁力をもつネオジム磁石を使用すると、モーターや発電機などを使用する機器の小型・軽量化、高出力化、高効率化、高速応答・高速駆動など、さまざまな観点で、大きな効果が得られます。
また、ネオジム磁石の残留磁束密度(Br)向上に加えて、ネオジム磁石が苦手としていた高温環境で使用可能な高保磁力(HcJ)材が開発されることで、用途が拡大していきました。


ネオジム磁石の用途の具体例を以下に示します。



製品分類 具体例
家電 マイクロスピーカー、マイクロアクチュエーター、ハードディスクドライブに用いられるボイスコイルモーター、
空調機や冷蔵庫のコンプレッサモーター、洗濯機など
自動車 電動パワーステアリング、電動自動車に用いられる駆動モーター、発電機など
産業機器 ロボットや工作機械に用いられるサーボモーターやリニアモーター、エレベーターの巻上げ機など
インフラ 風力発電機など
その他 放射光施設に設置される挿入光源(アンジュレーター)など
  

上記のように、ネオジム磁石は社会を支えるキーマテリアルとの一つとなっており、今後もさまざまな製品に採用されるでしょう。

4.ネオジム磁石の磁力が強力である仕組み

磁石の磁力の強さには、磁石を構成する強磁性化合物の飽和磁化(飽和磁気分極)と磁気異方性が大きく影響します。ネオジム磁石は、飽和磁化と磁気異方性の両方が優れていることから、強い磁力を持ちます。

飽和磁化(飽和磁気分極)

磁石の残留磁束密度(Br)のポテンシャルを示す指標は、飽和磁化(正確な表記は飽和磁気分極)(Js)で表します。
Jsの大きさは、磁石を構成する化合物(物質)ごとに異なり、強い磁石を作製するには高いJsの化合物が必要です。
ネオジム磁石を構成する磁石化合物は「Nd2Fe14B」(Nd:ネオジム、Fe:鉄、B:ボロン)で、高いJsをもっているため強い磁石になります。

磁気異方性

磁石の保磁力(HcJ)のポテンシャルを示す指標は、異方性磁界(HA)です。異方性磁界は、磁気異方性(磁化を磁石化合物(結晶)の特定の方向に向けようとする特徴)の大きさを示す指標であり、HAが高いほど、高保磁力が得られやすくなります。
ネオジム磁石を構成する磁石化合物である「Nd2Fe14B」は、室温付近では実用的な磁石として活用できる水準のHAを有しますが、高温になると実用上問題になる水準までHAが低下してしまいます。

5.ネオジム磁石の小型化・高性能化

ネオジム磁石を採用する製品の高性能化、小型化、高効率化などを目的に、ネオジム磁石の高性能化が期待されています。そこで、以下のような技術開発による高性能化が進められています。

残留磁束密度(Br)の向上

残留磁束密度(Br)は強磁性化合物相(強磁性相:主相)の飽和磁化(Js)と磁石中の強磁性相の比率、強磁性相の容易磁化方向の分布で決定します。ネオジム磁石に用いる化合物のJsはNd2Fe14Bが最大に近く、高性能化を目的として他の元素を部分的に置換することによる向上効果はほとんどありません。

元素の置換以外に強磁性相の比率を高めるためには、異なる主相結晶粒の間に存在する粒界相の割合の低減が効果的です。粒界相は主にNdリッチ相とよばれる金属的な相や酸化物相で構成されます。しかし、このうち酸化物相は高い磁気特性に貢献しないと考えられており、この相を減らすことで、主相比率を向上できます。

酸化物相は、避けられない不純物として存在する酸素が希土類と反応して生成しますが、希土類は磁石製造工程で容易に酸化してしまうことから、酸素を遮断したプロセスの適用が有効です。
また、強磁性相の容易磁化方向の分布は小さいほうが好ましいでしょう。磁石製造工程のうち、成形プロセスで磁界をかけることにより、個々の粉末の向きをいかに揃えるかが重要であり、さまざまな工夫がされています。なお、個々のミクロな領域で強磁性相の容易磁化方向をそろえながら磁石内にマクロな配向の分布を作ることで、特徴的な製品が得られる場合があります。

例えばプロテリアルでは、ラジアル異方性や極異方性など、特殊な配向分布のリング磁石を製品化しています。

保磁力(HcJ)の向上

保磁力(HcJ)は、主相の異方性磁界(HA)と組織要因で決定されると考えられていますが、残留磁束密度(Br)ほど明確な指針がありません。このような状況の中でネオジム磁石を高保磁力化する手法としては、ネオジム(Nd)の一部をレアアースの一種であるジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)で置換する方法が、古くから知られています。レアアースの中で Ndは軽希土類、DyやTbは重希土類に分類されています。

DyやTbの置換により主相のHAが高まり、高いHcJが得られます。しかし、DyやTbは資源量の制約があり、資源確保に関する課題があるため生産量を大きく増やすことはできません。また、HcJが高くなる一方で、Brが低下してしまいます。 Brの低下は、主相物性の変化が要因です。

重希土類拡散技術(高Br、高HcJの両立)

保磁力(HcJ)の向上をめざす場合、課題となるのが主相物性の変化による残留磁束密度(Br)の低下です。そこで、高Brと高HcJの両立を実現するために、さまざまな技術開発が進められています。
例えば、磁石を構成する個々の結晶粒の表面のみに重希土類元素を濃縮できれば、保磁力を向上できます。2000年代になって、焼結体中の主相結晶粒界に沿って重希土類元素を拡散導入する方法(粒界拡散法)が見いだされました。

粒界拡散法は、Brの低下を抑えつつHcJを向上でき、結果、高Brと高 HcJの両立が可能となります。また、貴重な重希土類元素の使用量を大幅に低減できるメリットがあります。一般的な粒界拡散法では、表面付近の重希土類量が多くなり、厚みが大きな磁石は表面と内部でHcJの差が大きくなるためモーターなどの設計時には注意が必要です。

なお、近年の粒界拡散法では重希土類元素の中でも保磁力向上効果が大きなテルビウム(Tb)が用いられる機会が多くなっています。

6. ネオジム磁石の新たな課題~原料の供給リスク

ネオジム磁石に使われる原料には、供給リスクがあります。供給リスクによる影響を最低限に抑えるために、ネオジム磁石のさらなる高性能化・省資源化に向けた開発が進められています。

レアアースの供給リスクが大きい

ネオジム磁石の原料であるネオジム(Nd)やジスブロシウム(Dy)は、ネオジム磁石の普及が進んだ2000年前後には安価に供給され、普及を後押ししてきました。しかし、これらの原料を産出する国の政策変更により、2010年前後に暴騰しています。
その後、いったん原料価格は落ち着きましたが、ネオジム磁石の原料であるレアアースの供給リスクが指摘されるようになりました。
近年は、脱炭素化に向けた自動車の電動化が加速しています。構成部品の電動化でモーターの使用量が大幅に増加することから、モーター向けに採用されるネオジム磁石の需要が拡大します。
これらの背景もあって、ネオジム磁石の原材料は2020年頃から再び高騰しています。特に、粒界拡散法に用いられるTbは採掘量が少ないため高騰が顕著であり、常に供給リスクを抱えている状態です。

更なる高性能化・省資源化に向けて

需要が急激に拡大するネオジム磁石および原料のレアアースを安定的に供給するためには、原材料の調達リスクを最低限に抑えられるような技術開発が必要です。

日本では、プロテリアルを含めた民間企業の取組に加え、重希土類元素に依存しないネオジム磁石の高保磁力化に関する研究が、国家プロジェクトでも推進されてきました。
例えば、経済産業省が発行している「永久磁石に係る安定供給確保を図るための取組方針」において、省レアアース磁石の開発として、電動車に可能な重希土類フリー磁石の開発やネオジム使用量を半減したネオジム磁石の開発への取り組みが記載されています。

7. まとめ

ネオジム磁石は、磁力性能や機械的強度が高いため、さまざまな産業用製品への採用が拡大しています。しかし、原料となるレアアースの資源リスクがあるために原材料を他の材料に置き換える取り組みが進行。また、希少元素を拡散する技術の開発により、性能確保に必要な希少元素の量を低減する技術の開発が進んでいます。

プロテリアルでは、技術開発により高性能化や希少元素使用量のさらなる低減を両立した磁石や、ラジアル異方性など特殊な配向分布のリング磁石なども製品化しています。例えば、テルビウム(Tb)を用いた従来の粒界拡散法で得られる高い残留磁束密度(Br)と保磁力(HcJ)を、従来法と比較して5分の1程度のTb量で実現できる"M拡散™"という新技術の開発に成功。資源リスクを軽減しながら機器の小型化・高性能化を実現するために製品化を進めています。

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※NEOMAX、M拡散は株式会社プロテリアルの登録商標または商標です。

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