冷間金型の摩耗とは?|要因や解決策について解説

2023年9月22日

冷間金型の摩耗とは?|要因や解決策について解説

冷間金型の摩耗の進行は、製品の品質や製造コストに大きな影響を与えるため、製造業にとって深刻な問題です。しかし、金型に摩耗が生じる要因にはさまざまなものがあり、複数の要因が複合的に絡み合って影響が大きくなっていることは少なくありません。

金型の摩耗につながる要因と、要因ごとに適切な対策を知ることで、現実に起きている課題への適切なアプローチが可能です。この記事では、冷間金型の摩耗を詳しく解説し、解決策を提供します。

冷間金型の摩耗にお困りの方は、ぜひ一度ご確認ください。


1.冷間金型とは?

冷間金型とは、常温または材料の再結晶温度未満で、塑性変形を利用して行われる冷間加工に用いられる金型です。冷間金型は加工法の違いから、曲げ型やトリミング、抜き型、絞り型、鍛造型などの分類が可能です。

冷間金型を使用する冷間加工は、被加工材を主に常温で加工するため高い圧力が必要であり、金型には高い耐荷重が求められます。また、製品の寸法精度は金型の寸法精度以上に高くできません。追加工するか、もしくは高い金型精度が必要です。

精度は金型製造時だけでなく、膨大なショット数を重ねたあとにも要求されます。しかし、さまざまな要因で金型の劣化が進行するため、劣化防止を目的とした対策が取られています。

2.金型の損傷原因の種類と要求特性

金型の基本的な損傷形態は、摩耗・変形・疲労破壊・割れの4つに分類できます。
特に、冷間金型の交換につながる損傷形態には、摩耗、変形、割れが挙げられます。また、金型の損傷に影響を与える因子は、負荷応力、熱影響、金型の硬さです。

金型に要求される特徴の種類

冷間金型に要求される特徴には、さまざまなものがあります。
金型を用いた冷間加工時に金型自体が変形、破壊されないように、圧縮強度が大きく、耐衝撃性や靭性が高いことは必要不可欠です。 また、ショット数を増やすなかで寸法変化が生じてしまうと、品質が確保できません。さらに、耐久性が高くなければ破損により寿命が短くなり、頻繁に交換する必要が生じます。その他、耐摩耗性や耐焼付き性に優れていること、疲労強度が大きいことも、冷間金型には重要な要素です。

金型製造時に目を移すと、狙いの形状を実現するために被加工性が高いこと。狙い通りの寸法精度を確保するために、焼入れ性がよく、熱処理歪みが少ないことも欠かせません。
硬さや耐摩耗性を高めることで、欠けやチッピングが発生するなど、別の損傷が生じることがあります。高いレベルで性能を成立させるために、高硬度でありながら靭性が高く欠けが生じにくい鋼種が、各鋼材メーカーで開発されています。

3.冷間金型の摩耗の種類

冷間金型に関する課題(摩耗・変形・疲労破壊・割れなど)のなかでも、重要なのが「摩耗」です。以降は、摩耗に絞って解説します。

摩耗とは、摺動時に表面の微視的な硬い突起や硬質粒子の切削作用で表面が削られることや強く凝着した部分が次第に剥がれ落ち、破損する事象です。金型材の耐摩耗性は、硬さ、硬質炭化物のサイズ、量、分布状態の違いが大きく影響します。また冷間金型における摩耗は、主にアブレッシブ摩耗とアドヘッシブ摩耗に分類されます。

アブレッシブ摩耗

アブレッシブ摩耗とは、冷間金型と被加工材の間で、表面の微小な硬い突起や硬質粒子の切削作用によって生じる摩耗です。ひっかき摩耗や切削摩耗、スクラッチングとよばれることもあります。

アブレッシブ摩耗は硬度の高い材料が低い材料に食い込み、削っていくことで摩耗が進行します。
金型と被加工材の間で生じる摩耗を、特に二元アブレッシブ摩耗、冷間金型と被加工材の間に硬い粒子が入りこみ、表面を削り取ってしまう摩耗を三元アブレッシブ摩耗とよびます。
アブレッシブ摩耗による金型の劣化を抑制するためには、金型表面の硬度を高める対策が効果的です。

アドヘッシブ摩耗

アドヘッシブ摩耗は凝着摩耗ともよばれ、金型と被加工材との化学結合が剥がれることで進行する摩耗です。
研磨された金型の表面は人の目には平面に見える状態であっても、実際には粗さがありうねりが存在します。そのため金型と被加工材が接触する時には、表面の粗さやうねりによる微小な突起同士の接触が生じています。このように実際の接触面積は見かけの接触面積よりも小さく、高い圧力がかかる状態です。この接触点を真実接触点といいます。

     

真実接触点では、荷重により金型材と被加工材の表面にある酸化被膜が破壊され、母材同士が凝着します。凝着した状態で再度稼働すると、凝着点にせん断応力がかかり、硬質材側は溶着欠陥、軟質材側には凹状の欠陥が生じます。このように金型の稼働によって凝着・脱離が繰り返され進行するのがアドヘッシブ摩耗(凝着摩耗)です。アドヘッシブ摩耗の原因となる凝着は真実接触点の面積が小さいことで発生しやすくなるため、表面の粗さやうねりの低減が効果的です。

4.冷間金型の摩耗への対策

冷間金型の摩耗を解決する代表的な方法には、冷間金型材による対策と、冷間金型に表面処理を施す対策が挙げられます。それぞれの対策内容や、期待できる効果は以下です。

金型材による対策

冷間金型の摩耗による課題を解決するためには、冷間金型に使用されている材質の変更が効果的です。特に、硬度の差によって影響が大きくなる耐アブレッシブ摩耗性を向上させるためには、金型材の硬度を高くするとよいでしょう。
例えば、金型材に大きなサイズの炭化物を混入する割合を増やし、高い硬度を実現します。また、炭素量が0.7重量%以上の組成が望ましいです。

一方で、材料に混入している炭化物が粗大化し、比率が高くなると靭性が低下します。靭性が低下すると金型の欠けや割れが発生しやすくなるため、硬度と割れやすさの適切なバランスをとることが重要です。 金型材での対策は、アブレッシブ摩耗だけでなくアドヘッシブ摩耗の抑制に向けた対策としても効果的です。 金型材だけの対策で不十分な場合には、表面処理による対策を組み合わせるとよいでしょう。

表面処理による対策

表面処理によって耐摩耗性を向上させる場合、金型表面の硬度を向上させられる表面処理が効果的です。また、アドヘッシブ摩耗を引き起こす凝着の原因である表面の粗さやうねりを抑えられ、離型性の向上も期待できます。

一方で、表面処理はすべての冷間金型材に同様の効果を付与するわけではありません。金型材と表面処理の相性が悪いと十分な効果を発揮できず、すぐに表面処理が剥がれて効果が失われてしまいます。 金型に表面処理を施す場合には、金型材と表面処理内容の組み合わせで期待通りの効果を得られるか検討する必要があります。

まとめ

冷間金型の摩耗は、主に硬質材によって削り取られるアブレッシブ摩耗と、化学結合部分がちぎれるアドヘッシブ摩耗に分類できます。

アブレッシブ摩耗やアドヘッシブ摩耗による課題を改善するためには、原因に合わせた金型材や表面処理などの変更による対策が効果的です。摩耗は、複数の要因が複合的に絡み合って生じます。画一的な対策ではなく、状況に合わせた効果的な選択肢の組み合わせを選定する必要があります。

プロテリアルでは、冷間金型の摩耗に対する解決策として、高性能な冷間金型用工具鋼や高機能表面処理をラインナップしています。

冷間金型用工具鋼

冷間金型の材料として用いる工具鋼には、耐摩耗性や靭性、耐割れ性などのバランスが重要です。
プロテリアルでは、さまざまな特徴をもった冷間金型用の材料をラインナップしています。特に摩耗対策には、プロテリアルのSLDをはじめとしたSLDシリーズが適しています。さらに、SLD-fやSLD-MAGICは、高い靭性を兼ね備えており、耐欠け性やチッピング対策にも有効です。

プロテリアルの冷間金型用鋼はこちら

SLD-fは、高機能表面処理後も高い硬さが得られるため、表面処理を施した際に膜の密着性が高く、相性がよい点が特徴的です。

SLD-fについて詳しくはこちら

高機能表面処理

プロテリアルでは、冷間金型用の工具鋼だけでなく、金型専用に開発した独自の複合PVDコーティングであるTribec(トライベック)シリーズをラインナップしています。

金型やコーティングの損傷には複数の要因が関連しており、金型寿命改善のために画一的な対処ではうまくいかない場合があります。そこで、個別の状況に応じて分析を行い、損傷原因に適した対策が必要です。

金型の用途、材質、生じている課題など、さまざまなシーンに対応できるように、Tribecシリーズとして複数の種類が用意されています。被加工材と金型材に応じて高機能表面処理の種類を選択できます。

Tribec(トライベック)についてはこちら

こちらから資料(カタログ)が無料でダウンロードできます

また、課題が生じている要因が不明確な場合でも、状況のヒアリングから要因の明確化に協力できるため、冷間金型の摩耗でお困りの場合には、お気軽にお問合せください。

当社の製品に関するご相談やご質問は、お問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。

  • SLD, SLD-MAGIC, Tribecは株式会社プロテリアルの登録商標です。

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